お気に入りのミッキーマウス柄のマットの上で、おもくんはご機嫌です。
「おもくん」という名は、最初のおうちでついていた名前。その由来はわかりません。
夏休みで家族が日中から揃っていて、おもくんはみんなの笑顔の真ん中にいます。
年齢は10歳半(人間で言うと還暦)だけど、おもちゃで遊ぶのが大好き。子猫のように夢中になります。
遊んだら小腹がすくので、ママにおやつの催促。
お気づきでしょうが、おもくんは首に布を巻いています。
これは、多頭飼育現場での日々の名残です。強いオス猫に首根っこを咬まれたのかもしれません。他の動物かもしてません。保護時には、頭頂部から首の後ろにかけて真赤に傷口がただれていました。
この多頭飼育は、とある家から漏れ出た猫たちの鳴き声を子どもたちが聞きつけたことで発見されました。カギのかかっていない戸を開けたら、たくさんの猫がどっと飛び出してきたのです。ご近所で保護活動している玲子さんに、その話が持ち込まれました。
(玲子さんのお話は、こちら→ 「
小さな命をあきらめない」)
飼い主は他に引っ越したようで、猫たちは寒さと空腹に耐えて暮らしていました。
無人の家でも、法律では犬猫は飼い主の「所有物」となります。
保護に関わったボランティアの人たちは、行政に連絡をしまくり、警察にも入ってもらい、1年間奔走の末に、少しずつ猫たちを愛護センターへいったん保護のため送り出しました。
他の子がセンターからどんどん譲渡されていくのに、おもくんだけは残って、傷の手当てをしてもらっていました。首の布も、試行錯誤の末にセンターの方が「これが一番」と巻いてくださったものです。
おもくんは、譲渡先を探すべく、松戸市に2月にオープンしたばかりの「ろくねこ」へ移ります。保護猫を人や住環境に慣らしてから譲渡するハウスで、ここへ遊びに行くことも支援となります。

ろくねこ時代のおもくんです。
おもくんは、人間が大好きで、遊び好きで、子どもにもフレンドリーなので、たちまち人気者に。「ろくねこの営業部長」としてもSNSで紹介されていました。
そんなある日、おうちに迎える猫を探して家族とやってきたのが、現在小学2年生の暁人(あきと)くんです。暁人くんは、猫と暮らすことが念願だったのです。

(ママのインスタグラム「おもくんの飼い主」から)
暁人くんはおもくんと楽しく遊んで、「可愛い。この子がいい」とすっかり気に入りました。パパもママも、もちろん異存なし。
4月、おもくんは、暁人くんちの子になりました。
10歳越えという年齢も、首の傷も、すべてひっくるめて「おもくんが大好き」という家族の一員に。おもくんがろくねこを卒業するとき、「さびしいけどうれしい」お客さんたちがみんなお別れに来たそうです。
おもくんたちの一斉保護に駆け回り、この日の取材にも立ち合ってくださった尚美さん(写真奥)は、一家に愛情を注がれて幸せそうなおもくんの姿に、思わず涙がほろり。
「この子たちをあの現場からをどうやったら助け出せるか、もどかしくてもどかしくて切ない日々でした。心身ともに疲れ果てることの多い活動ですが、しあわせになった子の姿に元気をもらって、また前に進めます」
この日、尚美さんと一緒に取材に立ち合った保護仲間の厚子さん(写真手前)の家には、おもくんと一緒に暮らしていたマツコさんがいます。
(記事はコチラ → 「
続・楽しきひとつ屋根の下」 )
おもくんというなんとも味のある猫さんは、このご一家の福猫となって、さらに一家の団欒を楽しくしてくれることでしょう。
たくさんの人の思いが、たくさんの時間を要して一つになって、今のしあわせにつながる道ができたこと、おもくんのマスカットグリーンの瞳は、全部わかっているようですね。傷は少しずつ少しずつ治っています。頭頂部の傷口の毛も生えてきました。
さあ、夏休みも終わり。
おもくん、暁人くんの学校からの帰宅が待ち遠しいね。
暁人くんのそばで、末永く仲良くしあわせにね!
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

『
猫は奇跡』
"ふつうの猫"たちが起こした奇跡の実話17選

『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを

『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。

『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。

『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!

『
いつもそばにいる猫』
描き下ろし猫スタンプが登場。猫たちがあなたのトークルームに寄り添います!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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なんて嬉しいお話しなんでしょう。子猫ではなく大人猫を選んでくださったご家族の想いに共感します。お別れを惜しむお客様がおられたほど、魅力的なおもくん。
私も、年齢不明の大猫さんを7年前に保護し、先日亡くしました。短い期間でしたが、楽しく、病気も一緒に闘いました。濃密な時間を過ごさせてもらいました。
おもくん、長生きするんだよ!
by ちぃ 2025-09-02 15:47
多頭飼育という厳しい環境の中で育ったおもくん、人間好きのフレンドリーな性格はいつの間に身に着けたのだろうか。達観した落ち着きのあるその雰囲気は、家族を安心させまた楽しませてくれることだろう。傷も癒え一層元気になって、これまで数々のお世話をしてくれた方々に恩返しの報告ができるといいな。
by Y,M 2025-09-02 16:11
若くない、傷だらけ、多頭飼育崩壊、そんな過酷な経験をもつおもくんが幸せになった。
それだけでいいです。
んっ!あのマツコさんも一緒に暮らしていたとは驚きです。
「神の見えざる手」とはこういうことですね。(NNNグッジョブ!)
by ヤンヤン 2025-09-02 19:26
おもくん、苦労したけど愛されネコになって、ほんとうによかったです!
ネコ達のために奔走してくださった尚美さんも、ほんとうにありがとうございましたm(__)m
それにしても…多頭飼育崩壊のあげく引っ越す時に棄てて行った飼い主に『所有権』があるなんて、法律がおかし過ぎます…(T_T)
もうそろそろ、ほんとうの意味で『動物愛護』するための法律に改正していただけないものでしょうか…(T_T)
by ぴっころ 2025-09-10 14:35
>ちぃさん
私にも、とっても嬉しい取材でした!おもくんも家族と、ちいさんの猫さんと同じく濃密な時間をこれからたくさん過ごすことでしょう。
by 道ばた猫 2025-09-12 14:22
>Y.Mさん
きっと多頭の中で、年長猫としてたくさんの若い猫の面倒をみてきたのかもしれません。我慢もいっぱいしたことでしょう。これからはのびのび甘えん坊になあれ。
by 道ばた猫 2025-09-12 14:24
>ヤンヤンさん
ろくねこさんには、子猫たちもいたそうですから、
大人猫の魅力に気づいた暁人君の見識に拍手です!
by 道ばた猫 2025-09-12 14:27