[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2013年09月24日

東京の「村猫」

　檜原村（ひのはらむら）は、島を除けば、東京都でただひとつの「村」。武蔵五日市から奥多摩に抜ける途中にある、昔ながらの山村です。炭焼き、兜造りの古民家、村祭り、秋川のせせらぎ、トンボの群れ・・・・そんな初秋の山里暮らしを満喫している猫たちに会ってきました。

　畑の散策を終えて、屋根伝いに帰ってきたのは、染工房シゲタのドラえもんです。７年前、子猫の時に町で拾われ、この村にやってきました。あまり丈夫ではなかったそうですが、今は村の猫としてのんびり暮らしています。

　この工房は染色家の繁田泰治さん・あきのさんご夫妻の工房兼ギャラリー。あきのさんが作業をしていると、背中に飛び乗って、肩にあごをかけてくつろいでしまう、甘えん坊のドラえもんです。（写真は泰治さん撮影）

　ドラえもんの尻尾は、幸運を運ぶしるしのカギしっぽで、あきのさんの作品の猫のモデルになっています。村で採取した草や木で染めあげた作品は、とても柔らかく、深みのある色合いです。

　「檜原は猫が多いの。ご近所にもいろんな猫がいますよ～」と、あきのさんが人里（へんぼり）集落内を案内してくれました。ところが、行く先々で・・・・。

　「あれ、さっきまでそこにいたんだけど」

　「にゃん吉は、朝は畑についてきたねえ。さあて、どこにいっちまったんだか」

　「シクラメンの温室にいなければ、川のほうかな。夕方、おなかすいたら帰ってくるよ」といった具合に、行方知れず。川べり、茂み、山のふもと...遊び場所が広すぎて、みんな「今日はどこまで行ったやら」状態。村の猫たちは、お腹がすくまでは呼んだって帰ってはこないのでした。石段で遊んでいた黒猫も、どこかのおうちの自由猫なのでしょう。

　檜原村から五日市に戻る集落にある「茶房むべ」は、画家の高橋敏彦さんのご自宅敷地内にあり、ご家族でなさっている落ち着いた喫茶店です。７年前に来た時、まだ１歳くらいの若い黄色兄弟猫がいて、庭のベンチ席で相席を楽しみました。名前は、画家の猫らしく、ミロとダ・ヴィンチ！

　いまは、大きくなって、性格もそれぞれ、行動もそれぞれ、だそうですが、会えました！

　ダ・ヴィンチくんは、思索派。マスカット色にオレンジの混ざった瞳が神秘的な、風格ある猫です。

　ミロくんは、外遊びが好きな野生派。窓の上で、野鳥を狙っていました。いろいろと獲物を獲ってくる名ハンターだそうです。

　画伯のお話では、８年前、自宅前に捨てられていた母さん猫がすぐに仔猫を３匹産み、まるで子どもたちを託すかのように、交通事故で死んでしまったそうです。３匹のうち、長毛の女の子は貰われていき、兄弟猫２匹がここの猫になりました。ミロくんダ・ヴィンチくん兄弟のくつろぐ姿にに見とれて、美味しい空気と焙煎珈琲を味わっていたら、時間がたつのをすっかり忘れてしまいました。檜原村では、時間の速さがちょっとずれているという噂は、どうやら本当のようです。

　茶房むべを出た道ばたで、うとうと昼寝をしていたのはサバ白の「ぶっち」ちゃん。近くのお宅の飼い猫のご飯のおすそ分けをもらい、あとは自給自足の村猫生活。。野鳥、モグラ、ネズミ、ヘビ・・・食糧には事欠かないだろうことは、ふっくら体型からよくわかります。

　檜原村界隈で出会った猫たちは、都会の猫たちとちょっと違って、媚びず、恐れず、マイペース。村猫としての、自分の時間割を持っているのが、とても新鮮でした。

　村は、いま、彼岸花が満開で、トンボが飛び交っています。

写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹茉莉子（さたけまりこ）

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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