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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2025年12月23日

黒猫母子の小さな奇跡

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寒い北風の季節。O家のあたたかなリビングでは、ピカピカの目をした黒猫さんがくつろいでいます。

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1歳半のげんくんです。

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おや、もう1匹、耳カット推をした黒猫もいます。れいちゃん、8歳半です。
れいちゃんとげんくんは、母と息子。そっくりですが、耳カットと短め尻尾の持ち主がママのれいちゃんです。

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なおゆきくんが小学校から、さねゆきくんが中学校から帰ってきて,クリスマスの飾りつけがされたリビングはいっそうにぎやかになりました。今年のクリスマスは、黒猫母子にとっても、和貴(かずき)さん恵(めぐみ)さん夫妻と息子たちにとっても、こよなく楽しい団欒になるにちがいありません。なぜなら、れいちゃんとげんくんは、小さな奇跡のようなドラマを経て、この夏、ここで再び一緒に暮らし始めたからなんです。

お話は、去年の7月にさかのぼります。
「鎌倉ねこの間」から譲渡された猫が譲渡先から脱走。その捜索に、みんなが必死になっていた時、とある場所で、何匹かのノラ集団が暮らしているのに遭遇します。全員黒猫で、子猫は2匹いました。ご飯を運んでいる人はいましたが、未手術。地域の人たちの話によると、母猫は、知られているだけですでに8回も出産しているということでした。

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外での出産・子育ての連続は、どれほどに神経をすり減らし、体力気力を使い果たしたでしょうか。
保護ボランティアの美喜さんたちは、TNRを進めるとともに、健康状態が心配な幼い2匹の保護を決めました。お兄ちゃんのショコラはガリガリで、猫風邪で目も塞がっていました。妹のあんこは早くにおうちが決まり、ショコラは預かりボランティアの沙和子さん宅で人懐こい甘えん坊男子としてすくすくと育ちます。

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その後、TNRされた母猫が暮らしていた場所は、環境が悪化。外猫が暮らせない場所となったため、母猫の「姫」も保護され、一時預かりボランティアさん宅へ。
でも、そこの先住猫と相性が悪く、今年2月から預かりボランティアの長谷川貴史さんのもとに移りました。
子猫の一時預かりを30回以上経験してきた長谷川さんでしたが、姫ちゃんは初めての大人猫。

「姫はとても賢く猫らしいプライドをもった子でしたが、それでいて、人に取り入る術を知っているようでした。おそらく、産んだ子を失うことも多く、生き抜くために学んだことのように感じました」

そんな姫ちゃんを愛しいと思いながら、けっして超えられない壁も感じていたという長谷川さん。それが一転する日がやってきたのです。

「姫が最近とてもさびしそうなんです。お世話する子猫でもいたら、寂しさがまぎれるかも」と、長谷川さんから相談された鎌倉ねこの間の永田さんの脳裏に浮かんだのは、沙和子さん宅で一年近く預かってもらっているショコラ。そう、幼い時に保護した姫の息子です。
でも、母と子の間には、空白の一年の年月が。とんでもないバトルも想定の上で、ショコラは姫のもとへ運ばれました。
姫のいるケージにショコラをイン。すると......。
匂いを嗅ぎ合い、鼻をくっつけ合い。その様子は「ママ?」「おまえは、もしや私の産んだあの子?」と確かめ合っているようだったといいます。そして、すぐにペロペロ舐め合ったのでした。

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母と子は仲睦まじく、長谷川さんのもとで暮らし始めます。息子が来てから、姫は長谷川さんに取り入ることをやめました。ショコラとレスリングをして負かしてしまうさまは「母は強し」を見せつけているようでしたが、寄り添う姿もたくさん見せました。
「そんな暮らしが続いて、初めて姫と打ち解けられたように感じました。人も猫も、家族は共に暮らすのが自然なのだとも思いました」
譲渡先を探す永田さんたちの胸にも、ある思いが湧いてきます。
「できるなら、同じ家にもらわれていってほしい」

そして、今年の夏。4年前に、18歳のサビ猫いねちゃんを見送ったO家の夫妻が「そろそろまた猫を飼いたい」と、ねこの間に相談にやってきました。
「黒猫が好き」「大人猫でいい」という話を聞いて、永田さんは幾つかのおすすめ候補の中に姫ショコラ母子も入れました。
そして、O家は、なんと母と息子の2匹を迎えることを決めたのでした。
「1匹のつもりだったんです。波乱万丈な2匹のドラマを聞いていたわけじゃなくて、母と子のコンビもいいかな」と迎えたO家でしたが、母子の保護から今までに関わった人たちは大喜び。「れい」と「げん」という名をもらい、母子のずっとの暮らしが始まりました。

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れいちゃんは、ときどきげんくんをガブリと嚙むそうです。「お前、大きくなっちゃって」というみたいに。
げんくんは、一応ママにやり返すけれど、最後は逃げていくのだとか。やはり母は強しなのでした。

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あれあれ、和貴父さんが、れいちゃんに顔をうずめています。
れいちゃんは、抱っこだけは嫌いで、抱こうとすると「いやっ、いやっ、いやっ!」と鳴くそうです(笑)。

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みんなが願った「いっしょに温かい家庭へ」がここにあります。学校で作った絵画などの作品がいっぱい貼られた階段を見ただけで、それがわかります。

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「2匹迎えたというと、きょうだいですかとよく言われるけれど、母子ですと答えるとびっくりされますね。よほど珍しいみたいで」と、恵さん。
「いろいろな思いをして生き抜いてきただろう2匹が、終の棲家でのびのび暮らしてくれれば」と和貴さん。

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「2匹いっしょにもらってよかった」と、さねゆきくんもなおゆきくんも声を揃えます。

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そうそう、げんくんより早くおうちっ子になった妹のあんこちゃんも、可愛がられて元気にクリスマスを迎えるそうですよ。

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れいちゃんとげんくんはクリスマスに、いつもよりおいしいおやつと、お気に入りのおもちゃの新品をもらうのですって。
美喜さん、沙和子さん、長谷川さん、永田さん、Oさん一家、そして、寒い夜もボランティア活動に心を砕いている人たちみんなの願いは同じです。今、外で暮らす猫たちが、1匹でも多くあたたかな家族のもとでクリスマスを迎えられるように、手を繋いでいきたい!



「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

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道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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カテゴリ: 道ばた猫日記
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