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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2020年07月21日

民宿の看板猫

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おお、賢そうな白猫美人さん。
その名も、「とうふ」ちゃん。
ここ、南房総岩井海岸近くの年間民宿「蔵屋敷」の看板猫さんの1匹で、11歳です。

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蔵屋敷は、なんと、1000坪!
昔ながらの房総風景が広がる海と山の町に、500年続くこの土地代々の旧家だそう。「蔵屋敷」の名は、江戸期に、里見城のあった館山から山越えしてご飯を食べによくやってきた里見の殿様が名づけたそうな。
と言っても、敷居の高い宿ではなく、学生さんや子供連れのおなじみさんがいっぱい。心字池を中心にした緑したたる敷地に、一戸建ての客室がいくつもあります。
猫に会うのを楽しみにしているおなじみさんも多いとか。

私がいそいそとここにやってきたのも、看板猫さんに会うため。
先々週ご紹介した、スペインタイル絵付け作家の樋口さんの取材時に見逃せなかった絵皿の写真がきっかけで、取材申し込み。

その猫たちの絵皿は、享保ひなや古伊万里や豊国の浮世絵などがある玄関の間に飾ってありました(右上)。
 
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「みんな好き勝手な場所にいるから、探しても3匹みんなには会えないかもしれませんけど」と、気さくであったかな笑顔で迎えてくださった蔵屋敷さん。
女将さんと娘のさとみさんの、家族経営。「親戚の家に泊まりにきたような居心地」と、獲りたての魚や自家菜園の野菜を使った手料理のおいしさが評判です。

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寝起きだったとうふさん。
「お散歩に行く~」と、言いだします。ついていくことにしました。

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「この路地はアタシの縄張りなの」

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「だから、こうやっていろんなとこに匂いをつけておかなきゃね」
ご近所さんの勝手知ったるお庭にあいさつに行くとうふちゃん。

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部屋に戻ると、女将さんが、やってきた年月やお医者さんにかかった経歴などを書き込んだ「猫年表」を持ってきて、蔵屋敷の猫ヒストリーをお話してくださいました。

民宿を始めたのは、さとみさんのおじい様の代から。
さとみさんはここで生まれたのではありませんが、小さい時おじいちゃんの家に遊びに行くと、「たま」という三毛猫がいたそうです。
「妹が拾ってきた犬が、犬小屋で、片目のノラの仔猫を育てていたこともありました」

さとみさん一家が、実家に戻ってきてからも、動物好きの血は、巡ります。

さとみさんの息子さんが小学校5年生の頃、「給食室の前に捨て犬がいるんだ。すごく痩せててさ、死んじゃうよ」と訴えます。
「日頃やんちゃな子が、ぽろぽろ大粒の涙をこぼして。それは可哀そうだねと、夜拾いにいったら、丸々とした子犬で、まんまと騙されました」と、笑うさとみさん。

その犬「ぱき」ちゃんは、海辺への散歩で、防風林へ分け入っていき、捨てられていた黒白の子猫を救出。女将さんがエプロンのポケットに入れて持ち帰り。子を産んだこともないぱきちゃんでしたが、立派なお母さんとしてその子猫「さら」を育てあげました。
そのあとやってきたのが、とうふちゃん。お客さんが、目が開いたばかりの仔猫を、防風林からまた拾ってきたのです。
この時も、ぱきちゃんは、つきっきりで排泄のお世話までして育てました。

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ぱきちゃんは18歳近く、さらちゃんも18歳まで長生きしました。

とうふちゃんの2年後に、やってきたのが、茶トラの「ソイ」くん。
客室から鳴き声がすると思っていたら、なじみの男性客たちが拾った仔猫を部屋に入れていて、こう言います。
「僕たち、アパート暮らしで猫は飼えないけど、ここにいる間だけ部屋で飼わせて」

「まだ目も開いてないような仔猫だったので、私たちで、哺乳瓶で育てましたよ。お客さんは2泊くらいで帰っていったし」と、女将さんのおおらかな笑顔。

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そのソイくん、押し入れの奥でいい気持ちで寝ていたところを発見されて、あずまやに連れてこられます。

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おお、媚のない、潮風に吹かれて味のある、これぞ房州オトコ!

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青いホースも、茶トラを引き立てる彩りに。

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とうとう姿を現さず、写真を見せてもらったおはぎくん。
おととしのクリスマスの夜に、外で鳴いていた幼い猫でした。
「お腹空かせて正月を迎えるのは可哀そう」と、ご飯をあげて、いつの間にかうちの子になりました」と、女将さん。

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看板猫たちは、それぞれのテリトリーで自由気ままに過ごしていますが、「民宿の猫としてちゃんとしつけました」とのこと。
客室にはけっして入りません。お客様の料理を食べたがらないよう、宿の夕食時間前には満腹にしてもらっています。

帰りに、畑でとれたてのミニトマトやナス、みょうが、オクラ、そして、作り立ての炊き込みご飯を持たせてくださった女将さん。
コロナが収まったら、お客として、おいしい手料理と看板猫を楽しみに、きっと再訪します!
http://www.awa.or.jp/home/kurayashiki/
海辺の町に、あたたかき宿と人あり。地方文化の香りと、愛しき看板猫たちも。



「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

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寄りそう猫
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。

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猫だって......。
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。

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里山の子、さっちゃん
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

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フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!

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道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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カテゴリ: 道ばた猫日記
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みにゃさまのコメント

緑豊かで伸びやかな環境に、猫さん達がゆったりと生活していて、本当に癒しの空間ですね。縁あっての看板猫さん、これからも幸せに!

by ちぃ 2020-07-21 17:51

ここに泊まりたい!

by ねこかぶり 2020-07-21 18:24

※記事文訂正

記事中、300年続く旧家とありますが、500年続く、の間違いでした。
お詫びして、訂正いたします。

by 道ばた猫 2020-07-21 21:15

>ちぃさん

「やってきた猫は追い出すな」という言い伝えも日本にはあるそうですが、まさに、やってきた猫が笑顔を運ぶ民宿ですね~

by 道ばた猫 2020-07-22 00:40

>猫かぶりさん

宿泊だけでなく、食事だけでも予約すればOKなんですって。
看板猫3匹に会えたら、ラッキーですね!

by 道ばた猫 2020-07-22 00:43

民宿の猫、素敵ですねぇ。とうふちゃんもソイくんも媚びない表情で賢そう!素敵!おはぎくんも可愛いですね♪気ままな姿がうらやましいなぁー。時間がゆったり流れているようで穏やかな気持ちになります。今日もほどほどに頑張ろうと思いました(^-^)

by とも 2020-07-22 08:03

>皆さま

2019年最初の道ばた猫日記「猫がいるしあわせ」の9匹の保護猫がいるあおいちゃん一家を覚えていらっしゃいますか? 保護猫が増えて11匹となり、つらい思いをして生きてきた保護犬も迎え……犬と猫のドラマを、きょう(22日)12時半にアップのsippo「猫のいる風景」で、ぜひお読みください!

by 道ばた猫 2020-07-22 09:37

>ともさん

そうなんですよね、すべて人間に管理されていなくて、自分の「暮らし」を持っている猫は、顔つきがやわじゃないというか…雄雌ともにカッコいいです。

by 道ばた猫 2020-07-22 09:40

早く、コロナが落ち着いて欲しい。
会いたい猫さん、行きたい場所リストが
増える!
素敵なお宿。猫さんの名前が豆つながり
おはぎも、小豆ですね

by 妖怪元気ババァ 2020-07-22 12:42

茉莉子さん、sippoさんの記事を読みました。涙が止まりません。いつだって動物は人間の都合に振り回されて生きています。自分も人間。罪深い存在だと思います。自分の保護猫活動もその罪滅ぼしのような気持ちもあります。どちうか、ハナちゃんに奇跡が起きますように!決して楽しい取材ばかりではないと思いますが、いつも優しく温かい文章で綴ってくださり、本当にありがとうございます!落ち着いたらミーちゃんのお店で美味しいコーヒーをまた飲みましょうね。

by あべんぬ。 2020-07-22 13:04

こんな時だからこそニャンコ達には本当に癒されています。とうふちゃん、ソイくん、おはぎちゃん、名前も柄もバラエティに富んでいて楽しかったです。Shippoさん読ませていただきました。捨てる神あれば拾う神あり。本当に頭が下がります。ハナちゃんが一日でも長く幸せな日が続きますように・・・。

by ぺったんの母 2020-07-22 15:24

>妖怪元気ババァさん

私も同じく、いきたい場所がたまっていきます(笑)。
どんな顔をしているか、マスクが隠す人づきあいなんて、早く終わってほしいですね。

by 道ばた猫 2020-07-22 23:19

>ミーちゃんの喫茶店で、おいしいコーヒーを飲める日が、本当に待ち遠しいです!
 スリスリ・グレースの顔も早く見たいし(笑)

by 道ばた猫 2020-07-22 23:23

すみません。↑のお返事は、あべんぬさんへです。

>ぺったんのお母さま

3匹目のおはぎくんは、3度も同じ商店にやってきて、3度も海辺に戻された子だったとか(後で判明)。蔵屋敷さんにやってきて最初に出たウンチが、「砂」だったそうです。どれ程ひもじかったのか。今は、幸せいっぱいですが。

by 道ばた猫 2020-07-22 23:29

南房総に住みたいなぁとますます思いました。
人間も含めて生きものたちが、本来の姿でのびのび暮らしていけるようでいやされます。
そういえば南総里見八剣伝てありましたねぇ。
大昔NHKの人形劇で見た記憶が...。
青ホースが似合う房州オトコ、ソイさんに思わずププッ(笑)。
ホントによく似合っててビックリ。
爪を立てて外出準備をするとうふさんに野生を感じます。もうゾクゾクしちゃいます。
. . .
コロナ禍で現代ではいろんな仕事が実はテレワークでも可能な事が判明。
命の危険を押してまで、満員の通勤電車に揺られる毎日のバカバカしさに気付いちゃった方も多いのでは?
(ハンコ押すためだけに通勤するとか...)
みんにゃが房総にいるような暮らしができる事を願って止みません。
...
追伸:
ハナさんは今愛されることを知って充分幸せだと思う。
少しでも長く続きますように!

by 才蔵 2020-07-23 06:59

>才蔵さん

はなちゃんへのエールをありがとうございます。昨夜の電話では、はなちゃんはご飯をちゃんと食べて、座ったり立ったりし、お母さんの足に首を置いて甘えた顔を見せたそうです。

by 道ばた猫 2020-07-24 19:36