茶乃ちゃんは、19歳半。敬義さん・裕美さん夫妻の大事な大事な猫さんです。田畑に囲まれた農村で暮らしています。
お父さんが独身だったときに迎えられて9年、さらにお母さんと結婚してからの10年を、一緒に過ごしてきました。
迎えた子猫のときから肝臓が悪かったので、長生きはしないだろうと思われていましたが、こうして、無事に19回めの冬を迎えます。
8月生まれなので、8月が来るごとに、「○歳になってよかったね。ありがとう」と伝えてきました。2年ほど前から後ろ足がおぼつかなくなって、夜間外来で諸検査。結果は「異状なし」でした。去年の今頃は「この冬を越せるかなあ」という体調でしたが、食欲を持ち直して1年。
トイレにも自力で行っていましたが、3週間くらい前から間に合わないことが多くなり、現在は歩けない状態で暖かなマットの上の生活に。敬義さんが夜もそばで寝ています。
「にゃあ~ん」と鳴いてトイレに行きたいと知らせると、抱えてトイレへ。
間に合わずに粗相をするとすぐにシートを取り換えてやります。たまにウンチが床にこぼれても「ウンチ出てよかったね~」と、お父さんお母さんに褒められる茶乃ちゃんです。
お父さんとお母さんには、茶乃ちゃんに「ありがとう」という思いがいっぱいなのです。
「独身時代の僕が私生活でも仕事でもどん底だった時期、実家に戻っていた時期も含めて、茶乃はどんなときも寄り添っていてくれたんです」と、敬義さん。
「茶乃がこうして頑張っているのは、主人を守りたいという思いがあったからという気がします。私も茶乃に感謝でいっぱいです」と、裕美さん。
敬義さんと茶乃ちゃんとの出会いは愛知県でした。
会社の同僚から「子猫を保護したんだけれど、うちで飼うのは無理だからもらってくれないか」と声をかけられました。
2か月くらいの愛らしい子猫だった茶乃ちゃんを保護して家に連れ帰ったものの、先住の大人猫たちが一斉に茶乃ちゃんをいじめのターゲットに。茶乃ちゃんはおびえて押入れにこもりきりになり、別室隔離もしましたが、やはり飼い続けるのは無理、ということでした。
そのせいで、茶乃ちゃんは完全に「猫嫌い」の猫となっていました。
敬義さんの家にやってきても、しばらくは心を閉ざし、逃げ回ります。
「干渉せずにお世話を続けていたら、3か月くらいでスリスリと、以来、いつもあとを追い、寝るのもいっしょ。そして、僕のさまざまなな辛い時期を寄り添い支えてくれたんです」
若い頃は胸周りがふさふさ。
「子どもの頃から猫が好きだった」裕美さんと、「茶乃と暮らしてから猫が好きになった」敬義さんが結婚すると、茶乃ちゃんはすぐに裕美さんになつきました。
2匹目の猫がやってきたのは、9年前。千葉市で暮らしていた頃です。裕美さんの会社の重油タンクの裏でノラの白猫母さんが子育てを始め、子猫たちはそれぞれ貰い手が見つかり、猫風邪で一番弱々しかった白黒の子を裕美さんが引き取ったのです。
猫嫌いの茶乃ちゃんは、全く受け入れませんでした。が、やがて「凛太郎」と名付けたこの子がかなりのビビリと見抜き、そばに来ても気にしなくなりました。
そのまた2~3年後。裕美さんが夕方雨戸を閉めようとすると、目の空き地にいた猫を目が合いました。「びっくりするほどガリガリ」のその子は、走ってくるや「ご飯ください」と必死に訴えます。
風邪もひいては鼻水を垂らしていたので、病院通いの末、譲渡先を探すために譲渡会へ。
ひもじいノラ時代につけた処世術なのか、誰にもすぐにゴロゴロするので、すぐに希望者がみつかりました。が、「わが道を行く猫」過ぎて、先住猫にちょっかいを出しまくり、4日で戻されてきました。
「出戻ってきたのなら、うちの子に」と、敬義さんたちに迎えてもらいます。空腹時代の反動もあって食欲旺盛。みるみる大猫に。
「数年前からご飯の量は調整しているんですが一向にやせません」という「宝湖(ぽこ)」ちゃんの現在は、これ!
みっちり固太りで8キロあるメス猫さんは、そうはいないんじゃないでしょうか。
お隣のおばあちゃんに「お腹に赤ちゃんいるのかい」と言われてしまったね。
凛太郎君も7キロある立派な大猫さんですが、来客にビビッて隠れようとする凛太郎君に「大丈夫だよ」と言いに駆け寄る宝湖ちゃんの貫禄たるや。
「ふたりは、毎朝ドタバタと追いかけっこをするケンカ友達なんですが、ときどき、心配し合う仲でもあるんです」と裕美さん。
体調が芳しくない茶乃ちゃんが、今、家の中で特別な存在であることもちゃんとわかっているようで、ふたりして茶乃ちゃんの様子を見にくることも多くなったとか。茶乃ちゃんのほうも、前ほど拒否する様子を見せません。
「猫って、ふだんは気ままに過ごしているのに、何かあったときはそっと寄り添うんですよね、すごいですよね」と、敬義さんはしみじみと言います。
だって、家族だもん。
振り向いた宝湖ちゃんがそう言っている気がしました。
そうそう、敬義さんがこんなことを話してくれました。
「ある晩、うたたねをしてしまったんです。『そんなところで寝たら、風邪ひくよ』って、幼い女の子の声が背後でしました。びっくりして振り向くと、そこに、茶乃がちょこんと座っていました」
それはきっと夢ではなく、ほんとのこと。
茶乃ちゃんの家族、お父さんとお母さんと弟妹たちのそばでの日々が穏やかに続きますように。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

『
猫は奇跡』
"ふつうの猫"たちが起こした奇跡の実話17選

『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを

『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。

『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。

『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!

『
いつもそばにいる猫』
描き下ろし猫スタンプが登場。猫たちがあなたのトークルームに寄り添います!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
Instagram
年輪を重ねた茶乃ちゃん何と思慮深い顔立ちか、立派な顔は正直に生きた証拠。凛太郎も大きいが、宝湖ちゃんは本当に大きい。ストレスがないから太ったのかな?それぞれのネコたちが気持を通じ合って生きる姿は、本当に素晴らしい。
by Y,M 2025-12-02 17:01
茶乃ちゃん 頑張れーー!
うちにも、19歳の雄猫さんがいます。牙は1本折れ、黒くて艶々だった毛はもしゃもしゃですが、今だにうちのボスの座に君臨しています。
私も、随分この仔に助けて貰いました。
寒い冬を乗り切って、暖かい春を迎えようね。
by ちぃ 2025-12-02 18:41
猫嫌いの茶乃さん、そんなトラウマがあったのですね。今は幸せ、19歳のご長寿さんで良かったです。
凛太朗くんと宝湖ちゃん、我関せず良い仲も素晴らしい!
それでもお互いに心配しあうなんてサイコーの家族関係ですね。
茶乃さん、これからも長生きしてください。
by ヤンヤン 2025-12-03 07:25