なかなかの風格を持つ、この茶白猫三郎君は、推定13歳の熟年です。愛護センターに収容されるまでの猫生はわかりませんが、甘え下手なところが見受けられるのは、苦労多き猫生だったのかもしれません。とある地域の道路上にわらわらといるところを、個人保護ボランティアの方たちのタッグで一斉保護され、譲渡までのセンタ―預かりとなりました。
そんな三郎君が、裏が竹林という閑静なこの家の子になって10カ月が過ぎました。
屋上付き4段ケージハウスも持っていますが、家の中どこだって三郎君の好きなように過ごせるスペース。迎えてくれたお母さんは、高いところまで上れる猫ステップも手作りしてくれました。
だから、今日みたいに初めのお客さんで内心ビビりまくっているときは、ステップを伝って避難しちゃいます。ソファーの後ろに隠れるときもあるけど、今日は隠れそびれちゃった。
めざすは、天井のすみっこのこのコーナー。
これで、ひと安心。
三郎君は、猫エイズのキャリア猫です。保護後は、センターのエイズキャリア部屋で過ごしてきました。迎えたお母さんは、いわゆる「ひとり暮らしの高齢者」。と言っても70代初めの元気な女性ですが。それでも、保護猫を迎えるには、年齢からするととっくに譲渡対象外。
じつは、三郎君は、お母さんが暮らすK市の愛護センターが1年前に始めた「ハッピープロジェクト」で結ばれたカップルなのです。
K市愛護センターでは、保護犬猫のさっ処分ゼロを続けています。猫エイズや猫白血病のキャリアの子たちは、それぞれ同じキャリア同士で暮らす大きな部屋があります。センターには獣医さんも常駐していて、体調管理も尽くしてもらえます。
センター収容犬猫には、しっかりした審査の上での一般譲渡を進めていますが、キャリアの子たちは、なかなか譲渡が進まないのが現実です。
そんな譲渡が難しいキャリア猫と、猫が飼いたくても譲渡してもらえる年齢を過ぎた高齢者との、預かりも含めてのマッチングを、愛護センターではプログラムしたのです。預かりや譲渡後は、センターと地域の一般ボランティア協同で、しっかりフォローを続けます。
もちろん、健康に問題のない高齢者で、家族などの同意があること、単独飼いであること、飼育に無理が生じた場合はすぐにセンターに戻すことなど、こまやかな話し合いと審査が重ねられます。キャリア猫にもあたたかな家猫としての日々をという目的で始まったプログラムですから、けっして再びつらい思いはさせられません。
なので、このプログラムでの譲渡は、いまのところ三郎君のケースのみとなっています。
お母さんは言います。
「子どもたちも巣立って飼っていた犬も亡くして10年、動物とまた暮したいなあという思いがありましたが、年齢で譲渡してもらうのはもう無理。去年の秋、たまたま出入りの生協の方と猫の話になり、センター収容猫の話を聞きました。見学に行くと、エイズ部屋でおとなしく座っていたのが三郎でした。そういえば、近くの譲渡会に行ったとき、センター扱いで参加していた子で、印象に残っていました。また会ったねと、不思議な縁を感じました。預かりを申し出たのですが、センター長さんが話し合いや審査の上『譲渡でも構いません』と言ってくださって、三郎を迎えることができました。うれしかった」
譲渡時は、今よりずっと細かった三郎君。
すぐに新しいおうちになじみましたが、なかなか甘えてはくれないちょっとクールな猫さん。
それでも、お母さんは「三郎が来てくれて、ほんとうに幸せ」と、あれやこれや話しかけ、愛情を注ぎます。
孫が小さい時にお気に入りだったおもちゃは、今では三郎のもの。
人見知りの三郎が避難できて外の景色も楽しめるように、猫ステップもあちこちに。
のびのび~~。
かなり、貫禄がつきました。
そして、つい最近のこと。
「寝ている私のもとに三郎がやってきて、ゴロゴロ言いながら顔にスリスリしたんです」
おお、甘えん坊三郎になるのは、この先一直線の予感が。
「うちに来てくれた可愛い三郎のためにも、ずっと元気でいなくちゃあ」という思いを新たにしたお母さんでした。
お母さんは三郎君に怖い思いをさせたくないので、病院に連れていくときのケージインや、爪切りが苦手です。
そんな時は、ボランティアのかたが「いつでも手伝いますよ」と言ってくださるので、大助かり。いろいろなことも相談に乗ってもらいます。
高齢者と、キャリア猫や高齢猫とは、生活リズムがぴったりのようです。
この先どんどん甘えん坊になってくだろう三郎君とお母さんの、この穏やかで平和な日々が、一日でも長く続きますように。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

『
猫は奇跡』
"ふつうの猫"たちが起こした奇跡の実話17選

『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを

『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。

『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。

『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!

『
いつもそばにいる猫』
描き下ろし猫スタンプが登場。猫たちがあなたのトークルームに寄り添います!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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素晴らしいプログラムですね。
私も年齢的に、今の2歳の猫たちが最後の子だなぁ、と思っています。
病院に連れて行くのにフォローがあるのは助かるなぁ。
by ペンギン 2025-10-07 16:41
ボランティアの方々の懇切なルール作りには頭が下がります。三郎くんも深みが出てきた顔つきで、この先のお母さんとのやり取りが楽しみ。キャリアでも長生き出来るし心配ない、揃って末永くお幸せに。
by Y,M 2025-10-07 17:50
お母さん、70歳代はまだまだ若いですよー!
私のお友達に77歳の方がおられますが、若々しいし、私のお手本です。その方も、猫飼いさんです。猫飼ってると、気持ちが前向きになります。私が元気でなきゃ!って感じでしょうか?
三郎君、良かったね。
たくさん甘えて、たくさんお母さんを幸せにしてあげてね。
by ちぃ 2025-10-07 18:40
あ〜最後の1枚、なんて幸せな寝姿なんだろうと胸が熱くなります。
行政がこういう活動をしてくれるのは嬉しいですね。
by 16にゃんず 2025-10-07 19:59
キャリア老猫も幸せになるハッピープロジェクトですか、すごいアイデアです。
我が家も姫がお空に還ったら、シニアのキャリア猫と暮らすという選択もよいかもしれませんね。
(歳をとるほど可愛くなるから~ 某CM風)
三郎くんとお母さん、これからもずっと幸せにね。
by ヤンヤン 2025-10-08 11:35
こういう制度がもっと増えて欲しいです。
人間の人生でいちばん犬猫が必要な時期に、もう一緒に生活できないなんて悲しすぎます。
by 名無し 2025-10-08 22:32
K市愛護センターさんのハッピープロジェクト、素晴らしいですね~!
これぞ本当の『愛護』センターo(^o^)o
いまだに『命の期限』1週間の愛護センターが多い中、羨ましい限りです…
高齢者も犬猫もウィンウィンのこの取り組み、環境省と厚労省がタッグを組んで、全国に広げ
てもらえないですかね~?
幸運をつかんだ三郎くん、お母さんにたっぷり甘えて、末永くお幸せにね♪
by ぴっころ 2025-10-08 22:50