利発そうな目と柔らかいキジトラ毛皮を持った、この子猫さんは「ウェル」ちゃん。名前の由来は、後ほど。
ウェルちゃんは、推定3か月。7月に拾われてここにやってきました。
南房総の、海辺からしたら「山の中」と言えるような村落です。
ウェルちゃんを拾ってくれたのは、「ZUKOUSHITU」という木工所の戸田ご夫妻。肇さんは木工作家、晃代さんは寄木アクセサリー作家です。
この夏の暑い夜のこと。ふたりは、焼き肉を食べた後、とあるスーパーに立ち寄りました。店に入る前、子猫らしき鳴き声が耳に入ってきました。お母さーん!って必死に呼んでいるようなおびえきった低い声でした。
「どうする?」と二人は顔を見合わせました。
ワゴンの後ろなどを探し回ると、子猫がすごい速さで壁伝いに多目的トイレに逃げ込みました。捨て猫なのか、母猫の姿はどこにも見当たりません。
「うちにはPONちゃんがいるよ。絶対PONちゃんはほかの猫無理だよ」
「でも、ほっとけないよね」
店にわけを話して段ボール箱をもらい、捕獲したとたん子猫はおとなしくなりました。
子猫は痩せていて、猫風邪で目はぐじゅぐじゅ。獣医さんに診てもらい、手当を尽くし、みるみるかわいくなりました。
名前は、出遭ったお店の最初の3文字から「ウェル」ちゃんに。
さて、難問が、先住のPONちゃんです。
PONちゃんは、6歳のやはりキジトラのメス猫で、ちょっと並々ならぬ気性の持ち主なのです。
そう、覚えていらっしゃる方もいるでしょうか。5年前の「里山のやんちゃ娘」で紹介した、あのPONちゃんです。(PONちゃんの記事はこちら→
https://www.nekobu.com/blog/2020/06/post-2504.html)
PONちゃん、5年経って、さらに勇ましい里山のワイルド猫になっているのです。
ほうら。
ZUKOUSHITUの庭は、ご近所さん猫たちが集まる庭でもあるのですが、中で一番のボスと目されるのが「おぐろさん」と呼ばれている住所不定のオス猫。
そのおぐろさんに近づいて鼻チューをしたかと思うと、次の瞬間、猫パンチをかませるつわものPONちゃんなのです。
PONちゃんだって、道ばたで弱っているところを犬の散歩で見つけてもらった当初は、あどけない子猫だったんですけどね。
PONちゃんは、肇さんが大好きで、ひざに乗ってきたり、パソコン仕事を邪魔したり、散歩についてきたり、あれこれ自分からアプローチするくせに、肇さんが撫で続けていると「いい加減にしろよ」といきなりガブリときます。木くずを集める巨大な集塵機で、背中を吸われるのがお気に入り。眉間には、裏山でヘビと闘って咬まれた痕が今も残っています。
「可愛いけど、怖いです」と、肇さんは笑います。
そんな自分とお父さんの縄張りに、新しい子猫がやってきて、PONちゃんは怒りましたとも。
ウェルちゃんが使っているのは、かつてPONちゃんが使っていたケージハウスとキャットウオーク。ケージハウス越しにまずご対面させてみたところ、「なんでお前がここに!」と、PONちゃんご立腹。ウェルちゃんのほうは、ちっとも怖がらずに「おかあさ~ん」という感じで近寄ろうとしますが、PONちゃんは「おまえの母さんじゃないっ」と、一切無視。
「おやつをあげるのも、声掛けも、まずはPONちゃんを先にしていますが、仲良くしてくれなくて」と、晃代さん。
ウェルちゃんがやってきて2カ月近く。
相変わらず2匹の仲は縮まらず。
「おかあさ~ん」
「なにがっ!」という関係です。
「小さい時からおもちゃで遊ばず、おもちゃを振る手元を狙うPONだったので、性格は丸くはならないと思います」という肇さんは、PONちゃんのありのままをこよなく愛しています。
晃代さんは、PONちゃんがこのままウェルちゃんを受け付けなくても、譲渡先を探すつもりはないそうです。もうすっかりZUKOUSHITUの2匹目の子ですから。
「仲良くならなくても、お互いいい距離を保てるようになってくれれば。まあ、猫同士のことはなるようになるしか」と、ケアフルに見守ります。
そう、2匹はきっといい折り合いをつけることでしょう。
だって、キャットウオークを行くウェルちゃん、きりりと里山猫の顔つきになってきていますよ。自分をもって誇り高く生きるPON姐さんを見倣って、カッコいい2匹目になりそうです!
願わくば、この先もう少し仲良くなっていくといいな。半年後くらいが楽しみです。
ZUKOUSHITUのHPはコチラ →
https://zukoushitu.com/
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

『
猫は奇跡』
"ふつうの猫"たちが起こした奇跡の実話17選

『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを

『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。

『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。

『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!

『
いつもそばにいる猫』
描き下ろし猫スタンプが登場。猫たちがあなたのトークルームに寄り添います!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
Instagram
アイシャドーがスッキリのウェルちゃん、屈託のない今のうちがチャンス。PONちゃんが少し優しくなって、PONちゃんに受け入れられる日が一日も早く来ますように。
by Y,M 2025-09-09 14:44
あのポンちゃんの後輩猫さんだもの、きっと自由猫に育つのでしょうね。
猫同士、合う合わないは有るけど、仲良くなくてもそれなりに距離を取りながら、同居していきますよ。
ウェルちゃん、ポンちゃんより大きく育ってね。
by ちぃ 2025-09-09 20:14
ウェルちゃん可愛らしい!
野生児PON姐さんと適度な距離感で過ごせることを願っています。
PON姐さんもこんなに可愛らしい仔猫時代があったのですから、ウェルちゃんも凄いことになりそうな予感...
by ヤンヤン 2025-09-11 07:22
>Y.Mさん
猫のことですから、人間の思惑通りにはいかないことも多いし、思いがけない展開を見せてくれることも多い。楽しみに待ちましょう。
by 道ばた猫 2025-09-12 14:20