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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2017年06月20日

少年と猫

高層マンションの窓辺から午後の光がやわらかく射し込んでいます。
光のなかにいるのは、このおうちの兄とおとうと。ふたりの足元では、子猫が2匹、プロレス遊びを始めたところです。

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なんて平和な光景でしょうか。
子猫たちは、3月の終わりにこの家に迎えられたばかり。
先週ご紹介した「まう」と「れあ」の2匹と同じく、多頭飼い崩壊の家からのSOSを受けた保護団体「ねこけん」にレスキューされて、ミルクボランティアの墨田さん経由で、ここにやってきました。
春生まれの子は10ひきいたそうですが、5匹がオス猫に噛まれて命を落としています。
2~3匹の母猫が、10匹を共同で子育てしていたようですので、生き残った5匹が同じ母猫から生まれたきょうだいかどうかはわかりませんが、手術なしの室内多頭飼いなので、血がつながっていることは確かです。

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白黒の女の子が、「ハニー」。

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黒猫の女の子が、「ジャム」。

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ハニーちゃんの方が、ちょっとやんちゃ。
ジャムちゃんは、ハニーちゃんを頼りにする妹キャラなんだとか。

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2匹とも人懐こく、ワクチン接種のために獣医さんに連れていったときも、診察台の上で、ゴロゴロゴロゴロ。
お兄ちゃんたちの友だちが家に遊びに来ても、ゴロゴロゴロゴロ。
「猫のいるしあわせ」を思う存分堪能している少年たちです。

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このお宅では去年、16歳の猫を亡くしました。
ふたりの子どもたちが生まれる前からいた猫ですから、少年たちにとっては「猫のいない暮らし」は初めてでした。
下のお兄ちゃんが、ペット火葬の時に号泣したのを見て、お母さんは、息子にとっても猫の存在がそんなに大きかったということを改めて知ることに。
先住猫を見送って1年たった時、子猫2匹を迎えることにしたのでした。

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子猫の時から面倒を見るのは、お兄ちゃんたちにとって初めての体験。
一緒によく遊んでやり、トイレの掃除もしてやります。

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ライターであるママの明子さんは、子どもたちの小さい時から一緒に電車を見たり乗ったりを楽しんできました。
「ママ鉄」本も3冊書いていて、今も新聞の都内版で「ママ鉄の電車ウオッチ」という記事を連載中。
昨年出版された『福島のお母さん、聞かせて、その小さな声を』という著書は、東日本大震災で被災したお母さんたちの声をまとめたものです。
そのあとがきに、こんな言葉があります。
「何より大事なのは、彼女たちがそれぞれの土地で安心して暮らしていくことなのです」

明子さんのこの思いは、レスキューされた猫たち、さらには、すべての猫たちにも及ぶことだろうと思えました。
ハニーとジャムが生まれたおうちでは、行き場のない子猫を続けて2匹迎えたのが始まりで、経済的理由から不妊去勢手術を引き延ばしにしていたところ、7年間で、レスキュー時には33匹に増えてしまっていたケースです。
小学生だった少年は、増えていく猫たちの面倒をみてやり、スペースがないので、自分はキッチンや廊下で寝ていたといいます。
高校生になったので、家計を助けるためにアルバイトを始めようとしていました。
多頭飼い崩壊に至ったことは、経済力も情報もなく、どこに相談していいかも知らない少年が単独では防ぐことなどできないことでした。
猫のために忙殺された日々。レスキューに入ったねこけんさんでは、少年が学業や部活や友人との時間など、普通の高校生としての日々を取り戻せるよう、全頭を引き受けました。

だけど、ねこけんさんも、私も、きっと思いは同じ。
1匹も猫を捨てずに、彼なりになんとか守ろうとしたこの少年が、いつか自分の責任で猫を飼えるようになったとき、そのときは、ちゃんと手術をしてやって、終生猫を大切にしてやるはず。

ハニーとジャムを迎えたこのおうちの少年たちも、同じ年代。レスキュー時のニュース映像を見たそうです。
「どう思った?」と聞いたら、「かわいそう・・・」とぽつり。

言葉として聞いたわけではありませんが、少年たちから、多頭飼い崩壊の家の少年への、こんな声なきメッセージを私ははしっかりと感じました。
「君が守ろうとした猫たちのうち、2匹は僕たちが引き受けた。しあわせにする。安心して」と。

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そうそう、子猫5匹のうち、あと1匹の黒猫の男の子も、「銀寺(ぎんじ)」と名づけられて、可愛がられているそうですよ。



「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

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里山の子、さっちゃん
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

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しあわせになった猫 しあわせをくれた猫
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!


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道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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カテゴリ: 道ばた猫日記
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みにゃさまのコメント

前のお宅の事情はひどいことですが、少年がいい子なのが、せめてもの救いですね。この子の両親がもっと知識があれば、猫たちもこの子もつらい目に合わずにすんだのにと、思ってしまいます。この子には両親を反面教師にして、常識のある大人になって欲しいです。

by ふみちゃん 2017-06-20 15:22

多頭飼育崩壊予備軍、うちの近所でもそんなお家があります。
お年を召され、猫の世話どころではないようで、猫は放し飼い→ご近所から苦情→近所付き合いを拒み孤立→誰のアドバイスも聞かず猫は増え続ける・・・悪循環です。
結果、疎まれ追いかけ回される猫が1番かわいそうなことに。

昨年、その家から我が家にごはんもらいにきていた妊娠中の猫を捕獲→堕胎→リリースする予定が里親が見つかり、こんなこともあるんだ!と、アドバイスするも・・・手術はお金もらかかるし、かわいそうで嫌だ、と。

個人で関われれことには限界がありますねぇ。

by 桜さくら 2017-06-20 15:55

うちも、あれよこれよと保護が増えました。今は何とかなっていますが、うちも多頭保護で、何とも考えさせられます。

by さくら 2017-06-20 16:27

ハニーちゃんとジャムちゃん、かわいいですね〜。母さん猫たちが必死で守った命ですよね。
このニュースは知らなかったのですが、小学生だった少年が、何年も猫たちのためにがんばっていたのですね。彼が今、後悔だけではなく心が救われて、前向きになれていたらと願います。

by ふ〜みん 2017-06-20 17:41

5匹の子猫たち、みんな幸せになったんですね。生きられなかった子たちの分まで幸せに長生きしてね。
多頭飼育崩壊は悲しいです。手術がかわいそうだと言う人がいますが(うちの主人もそうでした。)産ませてあげないのに本能の行動を我慢させる方がかわいそうだし、もし増えても全員を飼うことはできないからと言ったら納得してくれました。でも話を聞いてくれる人ばかりじゃないから難しいですよね。。

by さりゅ 2017-06-21 01:37

(途中で送ってしまいました)ハニーとジャムに対するお兄ちゃんたちの優しさを見て微笑ましくなりました。素敵な御兄弟ですね。

by さりゅ 2017-06-21 01:44

ハニーちゃん、ジャムちゃんと少年ってなんとなく甘酸っぱい良い光景ですね(*^_^*)幸せな写真で温かい気持ちになります。
レスキューの入ったお家はそのような状況だったのですね。一生懸命お世話していたけれどやむなくだったのですね。

by とも 2017-06-21 07:12

こんなに素敵なエピソードを書いてくださって、佐竹さんには心から感謝しています。読みながら涙が出て来ました。
今回、多頭飼育現場にレスキューに入り、この子たちを救ってくれた「NPO法人ねこけん」さんは、杉並区に無料の避妊去勢動物病院を開院して、多頭飼育に陥ることを事前に防ぐ、もしくは多頭飼育の方の支援をしています。
桜さくらさんのコメントにあったような、ご近所で猫が増えて困っている方がいらしたら、是非、教えて差し上げてください。自体が悪化して手の施しようがなくなる前に、何とか止めて差し上げたいです。

by 墨田 2017-06-21 22:30

>ふみちゃんさん

猫を迎え入れるときに、手術や病気の時の費用、そして老いた時の介護などを覚悟して迎えるのは当然のことですが、このお宅では、予期せぬ不運が次々と襲って経済的にひっ迫していったようです。猫と暮らす誰もが決してならないとは言えないこと。相談窓口の確立と情報流布が望まれます。

by 道ばた猫 2017-06-22 01:58

>桜さくらさん

ミルクボランティアの墨田さんもコメントくださっていますが、ねこけんさんでは、多頭飼育崩壊を未然に防ぐべく、手術無料の動物病院を立ち上げました。今後、そうしたフォロー体制が各地で整っていきますように! 個人でやれることには限界はもちろんありますが、根気強く!手をつないで、だと思います。

by 道ばた猫 2017-06-22 02:04

>さくらさん

わが家も、一番多い時は犬1匹猫9匹でした!(すべてやってきた保護猫)しかも、子育て真っ最中。 何とか切り抜けましたが、今となっては懐かしいくらい、毎日にぎやかでいろんなことをしでかしてくれました。いろんなことも教えてくれました。

by 道ばた猫 2017-06-22 02:09

>ふーみんさん

ニュース映像では、少年は、すべての猫の名前を呼んでは、捕獲に協力していていました。寂しさももちろんあったでしょうが、猫たちのしあわせと安全をいちばん願っていたのは彼のような気がします。

by 道ばた猫 2017-06-22 02:13

>さりゅさん

同感です。子どもを産ませて育てることをさせてやれないのは、人間の都合なのですから、そのぶん、ストレスのないよう、終生たっぷりと愛情を注いでいくことだと思います。

by 道ばた猫 2017-06-22 02:18

>ともさん

はい、少年たちのすんなりした足が美しかったので、トップにもってきました(笑)。
多頭崩壊の家の少年と猫。今の平和なおうちの少年と猫。対照的ですが、猫を愛する気持ちは同じだと思い、このタイトルにしました。

by 道ばた猫 2017-06-22 02:22

>墨田さん

ミルクボランティアとしてフル回転しながら、ニケちゃんとの訪問活動も続け、落語やおいしい店でのオフもしっかり楽しんでいる墨田さんに、いっぱい元気をもらっています。愚痴や弱音を吐かないのが、最高です!

by 道ばた猫 2017-06-22 02:34

いつも墨田さんの活動にアドバイスとパワーをいただいています。京都からいつも応援しています。このお話には涙がこぼれました。大人がもっと頑張らなくてはなりません。少年をめぐるふたつのstoryをご紹介下さった佐竹様ありがとうございます。

by きむらかおり 2017-06-23 13:41

>きむらかおりさん

墨田さんの活動に元気を分けてもらってる人はいっぱいいるでしょうね。そして、救われた子猫が何匹いることか。
大人ががんばらなくては。本当に同感です!

by 道ばた猫 2017-06-24 00:54