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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2013年06月18日

ジャズを聴く猫

 まだ明るい初夏の夕べ、路地でくつろいでいる1匹の猫がいます。
 おお、ジャン・ギャバンのような風貌の猫ではありませんか! 深みのある緑の瞳には含羞があり、面長で、口元のしっかりしているいいオトコです。なんてこの路地に似合っているのでしょう。
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 彼は、虎太郎(こたろう)。この路地にある、いまではとんと見かけなくなったジャズを聴かせる喫茶店、「映画館」の看板猫です。地下鉄の白山駅をおりてすぐ、ほんものの映写機が路地入口の看板になっていて、トントントンと石段をおりたところに、まるで映画のセットのように、「映画館」はたたずんでいます。
  
 ドキュメンタリーを撮っていたというマスターが37年前に、この路地に店開き。真空管アンプも、スピーカーの真ん中のウッドホーンも、マスターの手作りというこの居心地のよい空間に、ジャズの重低音が柔らかく深々と響きます。
 
 「虎太郎の父親のオイも、虎太郎も、ここでジャズを聴いて育ったんですよ」と、マスターがとつとつと猫話をしてくれました。
 「オイは、やってきたときは痩せた子猫でね、育つにつれ、ガールフレンドたちがドアの前まで迎えに来るほどのモテモテ美男子になりました。おまけに、人の心がよくわかる賢い猫でした。オイが死んだとき、この路地に火葬車をよんで葬儀をしたのですが、オイを慕っていた路地の猫たちが集まってきて参列したんです。あれは、ほんとうに夢のような不思議な光景でした・・・・・」
 
 不思議は、それだけではありませんでした。火葬後のオイの遺骨を包んだものを、店内でいつもオイが座っていた座布団の上に置いたところ、開いていたドアから、1匹の子猫が入ってきて、迷わずお骨のところへ行き、鼻先をこすりつけて、また出ていったのだとか。オイがノラの彼女に産ませたのだとわかっていた子でしたが、まだなついてはいず、それまで店に入ってきたことなど一度もなかったというのに・・・。
 
 その子が、虎太郎です。いまは、マスターやママさんに甘え放題、虎太郎ファンの客も多い看板猫です。
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 虎太郎は、その辺をパトロールにでかけて路地に戻ってきても、すぐには店に入りません。向かいの家の室外機の上で、じっと店のドアをウォッチングしています。
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「虎太郎はね、引き算ができるんです」と、またまたマスターが不思議なことを言います。
 
「虎太郎は、あそこから観察していて、『さっきひとり出ていった、いまひとり出ていった、だから、店内は数人しかいないはず』と判断して店に帰ってくるんです。人見知りなところがあるんでね」
 
 小さな路地に生まれ育ったキジトラ父子の物語。
 短編映画を見たように、心に沁みました。
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写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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カテゴリ: 道ばた猫日記
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みにゃさまのコメント

素敵すぎますー(≧∇≦)

by 純子 2013-06-18 22:10

素敵なお話ですね♪

by ますきち 2013-06-18 23:05

素敵です〜!

by なお 2013-06-19 18:12

猫って、不思議な生き物ですよね。人間の勝手な見方だ、と片付かないようなことが結構ある=^^= 素敵な関係がいつまでも続きますように...

by はなび 2013-06-19 19:25

うっとり~ ♡ ♡ すてき~☆ 
一遍の映画を見終わったみたいに。 
いつまでも忘れられない きっと。
猫の魂と人間の魂は リンクしていますね♪

by ruineko 2013-06-20 12:49

>純子さん、ますきちさん、なおさん、はなびさん、ruinekoさん、
 虎太郎の父、人の心に寄り添う猫だった伝説の猫オイの物語と写真は、「映画館 猫・リレーエッセイ」で検索すると、映画館ママさんの素晴らしい文章で偲ぶことができます。誰もが「会いたかった!」と思うはずです。

by 道ばた猫 2013-06-20 13:21

虎太郎くん、元気そうだね。

by 黒じょか 2013-06-24 10:57

リレーエッセイも読んできました。
素敵なお話ばかりでした。
本当に人の気持ちに寄り添える不思議猫「オイ」ちゃんだったんですね。
「オイ」ちゃんに会う事の出来た人たちをうらやましくさえ思います。
猫の参列も、虎太郎君の訪問も、不思議な事ばかりでした。

私も以前、ノラ猫さんに餌をあげていて、たまに来る黒い雌猫が病気になってしまい、
やせ細った体で、最後に挨拶に来てくれた事がありまして、それを思い出してしまいました。

もっと前の話になりますが、たまにやってくる美人の雌猫さんに餌をあげていたのですが、
その子が子どもを産んで…餌をあげても、その場で食べずに、持って行ってしまうという子育てぶりでした。
子猫たちがしっかりしてきたからでしょうか、その子たちつれて見せに来てくれたことがありました。
たまたま、知人が来ていて、子猫を見せに来たよと、其の人にも見せてあげようとしたら、
母猫が知らない知人を不安に感じたらしく、何度もニャーニャーと私に向かって鳴くのです。
「大丈夫だよ。心配なら、子供のそばにいなさい。」と、私が言うと鳴くのをやめました。

近所に母猫と子猫たちに餌をあげていたおばあさんがいたのですが、ある日、餌をあげにいった場所で
倒れて亡くなりまして、そのおばあさんの家族が、その猫たち全員を引き取って、家で飼ったそうです。

by りんこ 2013-07-16 15:49

>りんこさん

 本当に、猫って、人の言葉が分かってますよね。いや、言葉が分かるというより、心がわかる、といった感じ。
 お世話になったひとのもとにお別れを言いにきた猫の話は何度か聞きましたし、わたしのところに通っていた黄色ちゃんもそうでした。
 おばあさんのご家族が猫全員を引き取った話、ほっとしました。亡きおばあさんもどんなに雲の上でほっとなさってることでしょう。

by 道ばた猫 2013-07-18 23:01