成田市の無農薬農家さんたちの共同出荷所である「おかげさま農場」の農産物直売所「かざぐるま」。そこを舞台とした猫たちの物語は、これまでに当ブログで何度か紹介してきました。
直近の記事は、12月17日の「猫が作るまあるい輪」です。
(記事はコチラ→
nekobu.com/blog/2024/12/post-3745.html )
かざぐるまの輪の中心にいるのは、いつもチャーリーさん。
チャーリーも、5年前の秋に、フラフラとおかげさま農場の出荷場にさまよいこんできたガリガリのオトナ猫でした。
温厚そのもので、賢く、誰にでも愛想よく接するので、たちまち出荷場の人気者に。人のそばが大好きなので、近くの直売所かざぐるま(年中無休)が開いている時間は、必ず出勤してお客さんサービスにつとめています。
「野菜が似合う看板猫」として、ファンをじわじわ増やしています。
今回のお話は、そんなチャーリーを虐めていた猫のお話です。
じゃーん!!
人間の愛と無縁に生きていたことがしのばれる風貌の雄猫です。
数年前に現れたこの猫は、近隣の猫たちのご飯を盗み食いして生きていました。
チャーリーのご飯も。
ご飯を盗むだけなら大目に見るのですが、彼は、チャーリーを目の敵にして追いかけ、追いつめるのです。チャーリーを愛する農場の人たちは、このノラのことを「はなくそ」「嫌われぶち」などと呼んでいました。髪型が似ていることから、歴史上の独裁者の名で呼ぶ人もいました。それもみな、チャーリーを愛するゆえなのでしたが。
農場スタッフの農家さんのひとりで、出荷や直場所のお店番も担当する尚子さんは、4年前の夏、カラスに突かれていたつなちゃんを保護したのをきっかけに、外で生きる猫たちの受難に次々と直面します。カラスに突かれ瀕死だったむぎちゃんもそうでした。
そこで、周りと手を結び、いろんな支援も得て、立ち上がりました。不幸な猫をこれ以上増やさない!まずは、出荷場周りの猫たちの手術と、子猫保護を!と。
「嫌われぶち」にも去勢手術をさせたのは、去年7月のことです。
そして、手術した以上、彼にもちゃんとねぐらとご飯を提供することに決めました。出荷用段ボールを置いている倉庫が、彼のねぐら兼食堂となりました。
嫌われぶちは、夏は涼しくて冬は暖かいここがに入ったようでした。
なんといっても朝夕定時にご飯を運んでもらえるのです。
それでも、長いこと嫌われ暮らしをしていたので、「嫌われ」をとって「ぶち」に改名し、ご飯をくれる尚子さんにさえ、イカ耳になりシャーが出てしまうのでしたが。
ご飯の時間に尚子さんが「ぶーちー」と呼ぶと、どこにいるのやらすぐさま姿を見せます。
駆け足で、倉庫に先回り、ご飯をねだります。
気がつくと、ぶちはチャーリーに遭遇しても、まったく虐めなくなっていました。
チャーリーはといえば、あれほど虐められていたのに、「全然気にしてなかったよ」というふうにフレンドリーなそぶりなのです。ぶちのご飯を食べる様子を近くで眺めていることもしばしば。ある日、何気なくスマホで撮ったぶちの写真に、尚子さんは驚きました。
「か、かわいい~」
ぶちのねぐらと食事場のある倉庫は、チャーリーのねぐらである出荷事務所とは少し離れた場所にしたのでしたが・・・・。
「ぶちが出荷場にいたよ」
「ぶちがチャーリーのマットの上で昼寝してたよ」といった目撃談が増えていって......。
どうやら、チャーリーは自分の縄張りである出荷場にぶちの出入りを許しているらしいのです。それどころか、ふたりの間には、友情めいたものが生まれているようなのです。
尚子さんは、チャーリーのご飯をあげている事務所内でぶちにもご飯をあげてみました。
ぶちは、安心してパクパク食べています。それをチャーリーが見守っています。
「猫ってすごいなあ」と尚子さんは感心しきりです。
相変わらず、「嫌われぶち」とか「はなくそ」と呼んでいるひともいますが、「それもみな、彼の名前」と尚子さんは思っています。彼が懸命に生きてきた小さな歴史。名前で呼ばれるのは、気にかけてもらっていた証。
ぶちの目は、どんどん丸くなりました。きれいな猫です。イカ耳もしなくなり、鳴き声も甘え声。
ぶちを初めて見たお客さんは「ベレーちゃん」とか「ジュリー」とか、思い思いに名をつけています。確かに、はなくそ模様さえ上品なほくろに見えるようになった愛されぶちです。
ご近所の方に、尚子さんはこんな話を聞きました。
「この猫、いっつも子猫の面倒をそれはよく見ていたよ」
去年保護譲渡した母子猫(大怪我をしたむぎちゃんのお母さんとお兄ちゃん)は、ぶちが守っていた家族だったのでしょうか。チャーリーを追いつめたのも、「こうやってご飯にありつくんだよ」とノラで生きていくだろう我が子に教えていたのかもしれません。
尚子さんの楽しみは、いつかぶちが撫でさせてくれる日のこと、チャーリーともっともっと仲のいい姿を見せてくれる日ことです。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

『
猫は奇跡』
"ふつうの猫"たちが起こした奇跡の実話17選

『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを

『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。

『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。

『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!

『
いつもそばにいる猫』
描き下ろし猫スタンプが登場。猫たちがあなたのトークルームに寄り添います!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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うわ~!ぶち君、男前じゃないですか!
キリッとした丸いお目めが素敵です♪
ぶち君も、きっとすごく苦労して生き抜いてきたんだね。
尚子さん、農場の皆さま、ほんとうにありがとうございます!
おかげさまで、心がほんわかと、あったかくなりました♪
by ぴっころ 2025-03-04 14:49
ぶちくん、少しずつ 人馴れしていっているんですね。丸いお目々が可愛いこと!
うちにも、ぶち猫さんがいます。とても食いしん坊で穏やかな性格です。
きっと、虐められても、チャーリーくんが、ぶちくんを心底嫌わないのには、理由があるのでしょうね。
by ちぃ 2025-03-04 15:01
チャーリーは落ち着きが出て一段と大人になった感じ。それにしてもぶちの変わり様にはびっくり。尚子さん達の手厚い介護とチャーリーの寛容な態度が心を開かせたのだろうが、厳しかった過去にも拘わらず、穏やかな性格を身につけたぶちも凄い。生き物は皆、生まれた時は素直な仲良しの心を持っているのだろう。大切にしていきたい。
by Y.M 2025-03-04 15:05
ぶち君はチャーリーに
嫉妬してたのかもですね。
ちょうど職場にいるイケメンでモテる上司に
嫉妬して露骨に嫌な態度してた男性のリーダーが
今日なんだか優しく上司を受け入れている様子を見てほっこりしたのを思い出しました。
by みんみ 2025-03-04 19:06
>ぴっころさん
疎まれ猫と愛され猫は、目が違ってきますよね。疎まれ猫はなりたくてなったわけではなく、みなほんとうはまあるい目をして暮らしたいと思います。
by 道ばた猫 2025-03-06 14:39
>ちぃさん
もしぶちが先に出荷場に保護されていたら、チャーリーは生きていくためにご飯を盗んだかも。そのことを、チャーリーはよくわかっているんだと思います。
by 道ばた猫 2025-03-06 14:41
>Y・Mさん
チャーリーは自分の食事がすんでても、「まだもらってません」とエサ皿にカリカリを入れてもらって、ぶちに譲るほど寛容な猫さんなんです。
by 道ばた猫 2025-03-06 14:45
>みんみさん
未去勢の雄猫は、争って生き抜くことが宿命のようなものですから、性格の良しあしじゃないんですよね~。
人間社会も大変ですね(笑)。
by 道ばた猫 2025-03-06 14:48
おなじみチャーリーちゃんはすっかり人気者なんですね。
新キャラブチくんはいじめっ子からのまさかの変身、まん丸なお目目もなんとも可愛らしいです。
猫って環境で変わるものなんですね。良かったです。
by ヤンヤン 2025-03-07 05:39
泣きました。こんなに手厚くお世話していただいてありがとうございます。
by ももちゃん 2025-03-08 20:50
>ヤンヤンさん
そう、猫って、ちょっと順番やタイミングが違っただけで、運命が大きく違って、顔つきも性格も運命に合わせていくんです。みんな本当はいい子。
by 道ばた猫 2025-03-19 14:04
>ももちゃんさん
尚子さんたちの大きな愛には、ほんとうに頭が下がります。
1匹1匹、それぞれに個性があって、それぞれにいわくがあって、それぞれに愛しい。
by 道ばた猫 2025-03-19 14:08