約2年間続いたこの連載『猫のまもりびと』も、今回が最終回。最後は一体どんなことを書こう......と考える私に、猫ボランティアえつこさんが声をかけてくれました。
「兄弟猫の里親さんご夫婦が、ぜひ2匹に会いにきてって言ってくれてるの。一緒に行く?」
皆さんは覚えていますか。『猫のまもりびと』第3回から3度にわたって取り上げた、兄弟猫のことを。
『第3回 生まれたての赤ちゃんねこたち』はこちら
胎盤がついたまま、初乳すら飲んでいない状態で保護された、低体重の3匹。たった60gで生まれた小さすぎる兄弟を、えつこさんは、育児放棄した母猫の代わりに、生後数日から育て始めました。昼夜問わず1、2時間おきに与えるミルク。免疫が低いため全く油断ならない状況の中、1匹は残念ながら亡くなってしまいましたが、2匹は生き延び、今は里親さんのところで幸せに暮らしているのです。
「ぜひ同行させてください!」
私にとっても2匹は、ときどきミルクをあげたり、自宅で預かったりしたこともある、懐かしい子たち。かくして取材をかねて、お伺いさせていただくことになったのです。
「こんにちは、ようこそー!」
のどかな住宅地に建つ、お庭が素敵な一軒家。里親さんご夫婦は、私たちを笑顔で迎えてくださいました。玄関を入ると、日当たりのいいリビングに、いましたいました、立派に成長した2匹! 今の名前は、テンちゃんとサンちゃんです。
「テンちゃん、サンちゃん、こんにちは。覚えてる?」
生後3ヶ月でもらわれていって、会うのは1年半ぶり。2匹ともさすがにすぐには思い出せない様子で、テンちゃんは小さく唸りながら、私たちをじっと観察。サンちゃんは部屋の隅にあるトイレに隠れて、なかなか出てきてくれません。それでも、小さかった2匹が普通の猫と同じサイズまで成長した姿を見ただけで、胸がいっぱいになります。
すぐに馴れてくれたテンちゃん。大きくなったねえ!
そして。そんな2匹をよそに、まったく人見知りせずかけよってくる小さな子が! 実は里親さんのお家には、10日ほど前に、新しい家族がやってきたばかりなのです。
「この子はののか。生後3ヶ月の女の子です。8匹で生まれたそうなんですが、1匹はもらわれ、1匹は亡くなり、6匹保健所に持ち込まれたところを、ボランティアさんが引き出して、助かったんです」
エネルギーの塊みたいな、元気一杯ののかちゃん。
ののかちゃんは、天真爛漫に部屋中を駆け回り、おもちゃを追いかけ、里親さんご夫婦や私たちに代わる代わる飛びついては、その可愛らしい顔をちゅっと近づけてくれます。思わず体の力が抜けてしまう、圧倒的愛くるしさ。
テンちゃん、サンちゃんも、ののかちゃんとはすぐに仲良しになったそうで、「ののかがやんちゃに遊ぶ姿をちょっと離れて見守ったり、一緒に水遊びしたり、すっかりお兄ちゃんの顔を見せてくれるようになったんですよ」と里親さん。確かに、10日前にはじめて会ったとは思えないくらい、自然な様子ですごしています。
テンちゃんはボール遊びが大好きとのことで、得意の大ジャンプも見せていただきました。広いリビングを、それはそれは楽しそうにダッシュ!
私たちを怖がってずっと隠れていたサンちゃんも、里親さんに抱っこされてようやく登場。警戒はしているけれど、「お父さんの腕の中ならだいじょうぶ」と思ってるんだなあと思うと、里親さんとの絆が感じられて、それはそれでほっこり。
居心地のいいリビングで猫たちと楽しく過ごしながら、私は、「この3匹は、誰かが手を差し伸べなければ、今ここにいなかったんだ」ということを改めて考えました。
子猫時代のテンちゃん、サンちゃん。
今にも消えそうだった小さすぎる命を、寝ずに育てたえつこさん。処分される予定だったののかちゃんたち6匹を、センターから引き出したボランティアさん。そして、その子達を引き取って、愛情たっぷりに育てる里親さんご夫婦。3匹は、自分たちの命が脅かされていたことなどなにも知らず、ただただ人を信頼し、無邪気に可愛らしい姿を見せてくれます。性格も、リアクションもそれぞれ違って、それぞれが本当に愛しい。
里親さんに甘えるテンちゃん。
残念ながら今、日本には、処分されてしまうたくさんの命があります。その子たちにも、本当はそれぞれ違った魅力があり、愛らしさがあり、その子だけが持つ唯一無二の個性があったはず。誰かが手を差し伸べれば、その先に、20年近い命の時間があったはず。そう思うと胸がぎゅっとなります。
たくさんの人が猫を気にかけ「猫のまもりびと」になれば、そして自分にできる範囲で一歩を踏み出せば、きっと、その命を救うことができる、と思うのです。
この連載を通じて、私はたくさんの「猫のまもりびと」に会いました。どの人の活動も尊く、けれど一人にできることは限られています。「一人が限界まで頑張るよりも、10人が少しずつ気にかけてくれる社会が理想」と話してくれたボランティアさんがいました。私も本当にそう思います。
テンちゃん、サンちゃん、ののかちゃんのような猫たちが、もっともっと増えていきますように。里親さんとお風呂場で水遊びしたり、寒い日には一緒のふとんで眠ったり、リビングで日向ぼっこしたり。3匹が過ごす穏やかで平和な時間が、どうか他の猫たちにも与えられますように。
私自身これからも「猫のまもりびと」の一人として、自分ができることをずっと続けていこう。テンちゃん、サンちゃん、ののかちゃんと会って、改めてその決意を強くしました。
この連載を通じて一人でも「猫のまもりびと」が増えてくれたら、こんなに嬉しいことはありません。
では、またどこかで。2年間、本当にありがとうございました。
【猫部からのお知らせ】
読者のみにゃさま
これまで「猫のまもりびと」をご愛読くださり本当にありがとうございました。
2021年6月から連載してまいりました「猫のまもりびと」は、本日で最終回となります。
これまでたくさんの応援とあたたかいコメントをありがとうございました。
まだまだ、猫にとって暮らしやすい社会の実現の道半ばではございますが、こういった猫を思い、手を差し伸べる
「まもりびと」のみなさんの活動を、少しでも多くの方に知っていただける場になっていたら幸いです。
取材にご協力くださった猫さん、たくさんの「猫のまもりびと」のみなさま、そして長きにわたり連載を続けてくださったあさのますみさん、
本当にありがとうございました。
フェリシモ「猫部」 編集部
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猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
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