きっかけは、私のもとに届いた、1通のメールでした。
今年9月、私は『ヨルとよる』という、黒猫の男の子が出てくる絵本を出版しました。するとある日、書店のオーナーさんから、『ヨルとよる』のパネル展をうちの店でやらせてもらえませんか、と打診のメールをいただいたのです。
書かれていたお店を調べてみると......なんと、猫の本を専門的に扱う書店! 本だけでなく、たくさんの猫グッズがところせましと並んだ、猫好きにとってはたまらない店内。1階は、本やグッズや喫茶を楽しむスペース、2階はギャラリーになっているというのも、なんだかワクワクします。
さらに調べると、オーナーの柳(ゆう)さんは、売上の一部を猫の保護団体などに寄付しているとのこと。これはぜひお話を伺いたい! ということで、ご厚意で開店前の店内に、お邪魔させていただきました。
「わー、ここだ!」
東京、立川市。
駅から歩いて12分の静かな街の一角で、思わず声が出ました。
necoya booksは、外観がとっても特徴的。大きなおおきな本のマーク、そして中に入る前からすでに、あちこちに猫! 期待が高まります。
この日は小雨が降っていたので、傘をさした猫たちがお出迎え。
「こんにちはー」
優しい笑顔で迎えてくださった柳さんは、韓国で生まれて、アメリカの大学を卒業したという経歴の持ち主。そういうこともあってか、絵本は日本のものだけじゃなく、英語のものや、韓国語で書かれたものも。
私の絵本『ヨルとよる』のパネルも!
それにしても、すごい数の本ですね!
「猫の本は今、1500冊ほどあります。少しでも多くの本を並べたいので、だいたいの本が1冊ずつ。猫グッズは、常に新しいものを仕入れているのですが、自分でも何種類あるか、もう把握していません」
店内を見回すと、天井から床まで、猫、猫、猫。小さい猫、大きい猫、ありとあらゆるかわいい猫たちにぐるりと囲まれて、幸せいっぱい。そして確かに、数え切れません。
大好きな『11ぴきのねこ』シリーズのグッズも!
とっても素敵なお店ですが、どうして猫の本専門書店をやろうと思ったのでしょうか。
「私の場合、『本屋をやりたい』という気持ちより先にまず『猫が好き』という思いがありました。とはいえ、最初から猫好きだったわけじゃないんです。むしろ結婚する前は、猫ってちょっと怖い、という印象を持っていたくらい。でも、ある日夫がペットショップで、私たちの結婚記念日に生まれたという子猫を見つけてきたんです。なんだか運命を感じて、お迎えすることにしました」
その子をきっかけに、猫のかわいさにハマっていったのですね?
「そうなんです。あまりのかわいさに、3ヶ月後には2匹目もお迎えしました。猫用のインスタアカウントも作って、他の人の猫たちの写真や動画も楽しんで......。でも、そうこうするうちに、過酷な環境に置かれた猫たちのことや、保護猫活動のことも知っていったんです。好きな絵本作家さんが、『ペットショップにいくまえに』というチャリティー展を開催していることなどもあって、『ペットショップ以外の選択肢があるんだ』と知ったり」
そこから「書店をはじめよう」と思われるのが、面白いですね。
「はい。個人で寄付をすることもできるけれど、一人じゃなくて、いろんな人と協力して、猫のためになにかできるといいな、保護猫活動のことも広めていきたいなと思ったとき、書店はどうだろう、と。もともと絵本も本屋さんも大好きで、絵本セラピストの資格を取ったり、韓国の人たちに日本のユニークな本屋さんを紹介する活動をしていたんです。で、8月8日が『世界猫の日』だったので、もうこの日にオープンするしかない! と。結局、思いついて半年でオープンしていました」
えええ、半年! それはまたすごいスピードですね!
「私は、普通の会社員しか経験がなく、出版業界のことも、書店経営のこともよく知らなかったので、本当にゼロからのスタートでした。しかも最初から、『1階は書店、2階はギャラリーにしたい』というこだわりもありました。そのうち、自宅から歩いて数分のところに、もともと居酒屋さんだった、今のこの物件を見つけまして。あちこち改装してもらったんですが、完成してお店を引き渡されたのが、なんとオープンの3日前!」
なんて過酷なスケジュール! よく間に合いましたね。
「荷物をすべて運んでもらったあとは、深夜までかかってレイアウトをしました。ここをこうしたい、というこだわりを形にするには、誰かが手伝えることでもないので、全部一人で」
喫茶スペースで出す飲み物も、猫にこだわっている。
とってもパワフルで、行動的な柳さん。お店を開いてからは、たくさんのご縁が生まれたといいます。詳しいことは次回、後編で!
※第20回の更新は1月14日(土)予定です。
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猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
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