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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

猫のまもりびと

2023年02月11日

第21回 宮崎徹先生とトークイベント・前編

以前、このコラムの第5回目にご登場いただいた、宮崎徹先生をご存じでしょうか。
⇒ 猫のまもりびと第5回はこちら

多くの猫を悩ませる、腎臓病。宮崎先生はその、治すことができないとされてきた腎臓病の、治療の鍵を握るタンパク質「AIM」を発見された方です。

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2021年、AIMについて記した著書『猫が30歳まで生きる日』(時事通信社)が出版されると、愛猫家たちを中心に、たちまち話題に。「お薬の研究に使ってください」と、当時所属していた東京大学に、約2億8000万円の寄付が集まりました。宮崎先生はその後東大を辞め、2022年4月に自ら研究所を立ち上げ、今は創薬に向けて、研究の毎日を送っておられます。

先日、そんな宮崎徹先生と、トークイベントでご一緒する機会に恵まれました。「ねこにすとEXPO」の会場で、AIMについて貴重なお話をたくさん伺いましたので、そのときの様子を2回に渡ってお伝えします。

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こんな内容のイベントでした。

1回目の今回は、宮崎徹先生がご説明くださった、「AIMについて」です。



宮崎徹先生:みなさん、お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。本日はAIMについてご説明させていただき、その後、皆さんからのご質問にお答えしようと思います。

まず簡単に、自己紹介を。私は長崎県の田舎町に生まれ、もともとは研究医ではなく、消化器内科の臨床医として働いておりました。獣医ではなくて、人を診る医者です。

医学部の学生時代は、教科書を開くと「この病気にはこの治療」と書いてありますので、てっきり、ほとんどすべての病気は治すことができるのだと勘違いしていました。けれど、実際に医療の現場に立つと、治せない病気がこんなにあるのだという事実に、衝撃を受けました。

その最たるものが、腎臓病なんです。
人にとっても猫にとっても、腎臓病は治せない病気で、はるか昔、私が臨床を始めたころから今に至るまで、残念ながら状況は変わっておりません。治療がないという前提で、たいへん多くの方が苦しんでいらっしゃる。ならばしっかり病気を研究して、治らない病気を一つでも治したいと思うようになり、研究医になったのです。

私は、ほとんど海外でキャリアを積みました。フランス、スイス、アメリカで研究を続け、2006年に東大に戻って、2022年3月まで東大の研究所におりました。スイスには1995年から5年間いましたが、今日お話しするAIMを発見したのは、このころです。そこからずっと研究し続け、猫のための薬を作り始めたのが大体6年前。それを追いかけて人の薬を作り始めたのが3年ほど前になります。2022年4月には、AIM医学研究所を立ち上げ、とにかく1日も早く世に出したいと、研究を続けております。

では、AIMはなにか、ということをご説明します。

AIMは、人間や猫や、ほとんどすべての動物が、血液中にたくさん持っているタンパク質です。ただ、裸で血液の中にあるわけではなく、IgMという抗体に、ぽこっとはまって、くっついて存在しているんです。

生物というのは、生きている限り、体内にたくさんのゴミが出てきます。そしてそのゴミが溜まり続けると、いろいろな病気を引き起こします。例えば、脳の中にアミロイドベータというゴミが溜まると認知症になりますし、腎臓に、細胞の死骸や炎症を起こすタンパク質のゴミが溜まると腎臓病になってしまいます。

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こういうスライドと一緒に説明して下さいました【提供:宮崎徹先生】

実はAIMは、そんなふうに体内にゴミが溜まりだすと活躍しはじめます。IgMから外れて単体になり、ゴミにぺたっと張り付くのです。するとなにが起きるかというと、我々の体内にある「ものを食べる細胞」が、そのゴミを食べてくれるのです。これはちょうど、ゴミの集配のときに、粗大ゴミの札を貼ると持っていってくれるのと似ています。札がないとゴミを持っていってもらえないのと同じように、AIMが張り付いていないと、ものを食べる細胞はゴミに気づかない。AIMという札があれば、ちゃんと掃除してくれるんです。

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会場に展示されていた、AIMを解説するイラスト【イラスト/畑健二郎&STAFF(メガひよこ、ゴメス)、協力/天野里美】

AIMとIgMは、戦闘機と航空母艦にも例えられます。AIMという戦闘機が、IgMという大きな航空母艦に乗っていて、ゴミを探している。ゴミが見つかると、戦闘機(AIM)は航空母艦(IgM)から飛び立ち、それを攻撃していくのです。我々の体は、まさにこういう機能のおかげでゴミから守られ、大きな病気をしないでいられるのです。

先ほどからことさら「IgMから外れる」という部分を強調しておりますが、実はこれは、猫の腎臓病に非常に関係していることなんです。

我々人間や、ネズミをはじめとする様々な動物は、体内にゴミが溜まると、AIMがIgMから外れて、ゴミを片付けに行く。ところが、猫だけがなぜか、外れないのです。猫は血中にとてもいいAIMを持っていて、ゴミにくっつく能力もおそらく高いのに、IgMから外れないがために、ゴミにくっつけないのです。

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【イラスト/畑健二郎&STAFF(メガひよこ、ゴメス)、協力/天野里美】

興味深いのは、トラ、ライオン、チーター、ヒョウなど、ネコ科の動物は全く同じAIMを持っていて、多くが腎臓病で亡くなるんです。

私たちの場合、腎臓にゴミが溜まると、そのつどAIMがやってきて片付けてくれます。ただ、ゴミが出過ぎてしまい、自身が持っているAIMでは足りない人もいる。そういう人は腎臓病になってしまいます。

では猫はどうかというと、先天的にAIMが働いていないので、全員の体内で、ゴミが溜まりっぱなしになってしまう。だから、ほとんどすべての猫が腎臓を病むんです。なにか特別なことが起こっているわけではなく、猫とネコ科の動物のAIMがうまく外れない形をしている、ただそれだけなんです。ということは、AIMのせいで病気になるわけですから、まともなAIMを薬にして使えばほとんどの猫が救えるはずだ、と。このことを6年ほど前の論文で発表し、薬を作り始めました。

では本当に、AIMで猫が救えるのか。

腎臓病というのは、人も猫もそうですが、とても長い期間を経て最終状況までいきます。猫はだいたい15年ほどかけて、クレアチニンという値が上がっていく。で、あるところで本当に突然がくっと悪くなって、数ヶ月のあいだで亡くなってしまうという経緯をたどります。

そこで、数ヶ月おいていると一気に悪くなり亡くなってしまうという時期、慢性腎不全ステージ3の終わりの方の時期(私たちはこれをステージ3bと呼ぶことにしました)ですが、ここでAIMを打つとなにが起こるかということを、比較してみました。

その結果、このステージの猫の50%が亡くなるのが、190日前後であることが分かりました。190日後にはこのステージの半数の猫が亡くなってしまうわけですが、AIMを何回か打った猫たちはどうかというと、1年後でも全く死なずに元気なままでした。

この結果はすでに論文を投稿し、現在査読(審査)中です(まだ出版前なので、これ以上書くことは出来ないことをご容赦ください)。腎臓病の場合、クレアチニンの値は徐々に上がってきますが、本当に症状が重くなるまでは、猫は極めて元気で正常と変わらない。これは人間も同じで、クレアチニンが5になろうが6になろうが元気なままなんです。ところがある日突然、状態が悪くなる。尿毒症がある水準を超えると一気に悪くなり亡くなってしまいます。

ですから、AIMを注射することで、その前の段階で進行を止めてしまえば、なにも起こらないということになります。クレアチニンの値を戻さなくても、腎臓というのはスペア能力がものすごくありますので、完全に悪くならない限りはちゃんと働いてくれると考えられます。クレアチニン値では測れないところが確かにあります。

では、本当に末期にAIMを打つとどうなるか。

あと2週間ほどで亡くなってしまうという、末期の猫ちゃんにAIMを打たせていただきました。すると、7日後には自力でごはんを食べるということが起こっています。この子は、自分ではごはんが食べられない、ほとんど動かない、鳴けない、立っているのがやっとという状態だったのですが、一番変わっているのは体の炎症です。猫の場合、体に炎症が起こるとSAAという数値が上がってきますが、128だったものが1.7と、正常値になっています。これがAIMの一番の特徴で、強烈な炎症状態を落ち着かせるんです。

ただ、やはり慢性腎不全末期というのは、体のあちこちに、いろいろな症状や合併症がたくさん出てしまっています。それがどのくらい酷いかによって、余命2週間と診断された猫がどこまで生きられるかが決まります。要するに、個体差があるということです。ですから、症状が本当に悪くなる前に、AIMを打っておくということがとても大切です。

我々は、2種類の薬を作るというアイディアを持っています。ひとつは、AIMそのものを注射するお薬。もうひとつは、IgMにくっついて外れない自身のAIMを外してあげるようなお薬です。

ゴミがすでにたくさん溜まり、症状が出てしまっているときは、注射という形で、外からたくさんAIMを借りる。まだ病気にはなっていないけれど、ちょっと溜まったゴミをそのつど掃除したいというときには、サプリやフード、経口のお薬などで、本来は抗体から外れない自身のAIMを外し、働いてもらう。後者は、イナバさんやマルカンさんに声をかけて、まずフードとして作っていただきました。猫の場合、ゴミが掃除されずに体内にどんどん溜まっていきますので、早いうちから予防的に使えば、効果があるのではないかと思います。ただ、すでに症状が出ているような、ゴミがたくさん溜まっている状態であれば、フードで治るかというと、個人的には難しいのではないかと思います。恐らくゴミの量に比べて活性化されるAIMの量が少なすぎると思うからです。もちろん、データを取ってみないとはっきりしたことはいえませんけれど。

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【イラスト/畑健二郎&STAFF(メガひよこ、ゴメス)、協力/天野里美】

AIMの注射とフード、この2種類を使い分けることで、腎臓病をコントロールできるのではないかと、そういうふうに思っております。



宮崎先生からご説明いただいた、AIMのお話はここまでです。来月は、よせられた質問にお答えいただいた部分をお伝えします。

どうかお楽しみに。


※次回第22回の更新は3月18日(土)予定です。



猫部では宮崎先生のAIM医学研究を支援する、基金付きのチャリティーグッズを販売中です。こちらも是非ご覧ください。
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猫のまもりびとライター紹介

あさのますみ

声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。

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カテゴリ: 猫のまもりびと
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