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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

猫のまもりびと

2022年11月05日

第18回 ゆるちゃんのその後


皆さんは覚えていますか。我が家で預かっている猫、ゆるちゃんのことを。

このコラムにも何度か登場した、奄美からやってきたゆるちゃんを、預かりボランティアとしてお世話すること早9ヶ月。時間はかかりましたがたくさんの変化があったので、報告させてください。

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奄美で捕獲され、横浜にある保護猫カフェで里親さんを探すことになった、ゆるちゃん。とはいえ人に馴れた猫じゃなければ、カフェに出すことはできません。医療にかけ、体調を見守りつつ、ゆるちゃんをカフェに出せる状態にするため、24時間人がいる夫の仕事場で、ゆるちゃんを預かることになりました。

奄美からきた猫の中には、最初から人懐っこく、スリゴロの子もいるそう。ですがゆるちゃんは、そういうタイプではありませんでした。

撫でることはおろか、ほんのちょっとでも手が近づくと、体を硬くして警戒、シャーッと威嚇。場合によっては鋭い猫パンチが何発も!

かつて、しっぽと名付けた野良猫を保護したとき、家猫とは全く違う頑なな態度に「この子はきっと、なつかないに違いない」と思いましたが、ゆるちゃんはしっぽ以上の「馴れなさそう感」。

それでも、夫と、仕事場のスタッフさんたちは、ゆるちゃんの心の扉を根気強くノックし続けました。どんな様子だったか時系列で追っていくと......。

1月。ゆるちゃん用の部屋に二段ケージを用意し、ケージには布をかける。ゆるちゃんの緊張と警戒がとにかく強いので、少しでも和らぐよう、フードやお水のお世話など、最低限の接触以外はしないことに。落ち着いてくれるのを静かに待つ。

2月。ずっとケージのすみにうずくまっていたゆるちゃん、仕事場に来て1週間で、爪研ぎを使い始める。すると、もともとの性格なのか、それともストレスか、ケージ内の爪研ぎを次々と破壊するように。猫ボランティアさんに手伝ってもらって駆虫薬などを使うも、威嚇と猫パンチがすごい。2月の後半からは、ペット用ミトンを買って、少しずつ撫でる練習。

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ゆるちゃんが破壊した爪研ぎ、数知れず...。

3月。だんだんゆるちゃんの緊張が和らいできたので、ケージにかけた布の、正面をすべてオープンに。ずっとケージにいるのはストレスかもと、脱走防止策を徹底したのち、ケージの扉を開けっぱなしにしてみる。すると、人が近くにいないときはケージから出て、部屋を探検するように。

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まだまだ警戒がとけないゆるちゃん。

4月。夜、ゆるちゃん部屋に布団を敷いて、スタッフの誰かが一緒に寝ることに。するとゆるちゃん、夜中にそっと近づいて顔を覗き込んだり、足をちょんちょんと突いてくる。この頃から、飛び出し防止の柵越しに、人がいる部屋をじっと観察するようになった。

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ケージ越しにおやつは食べてくれるけれど、まだ触ることはできない。

5月。人前では決してフードを食べようとしなかったゆるちゃんが、ついに人間の隣でも気にせず食事をするように。警戒心がとけてきた証拠かもと、ちょっとホッとする。

6月。まだ触ることはできないけれど、おもちゃを見せるとじゃれつく仕草をして、一緒に遊ぶようになる。今まで、寝るときは必ずケージの中と決まっていたが、人がいないときはケージから出て、部屋の中でも寝ることが増えた。

7月。呼び鳴きをするようになる。おもちゃで遊んでほしいときには、大きな声で呼んで催促。また少し距離が縮まる。

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このころ、ケージの布が全部とれた!

8月。ワクチン接種をしなくてはならず、猫ボランティアさんに手伝ってもらって、どうにか病院へ。そこで数ヶ月ぶりに爪切りもしてもらう。とても怖い体験だったらしく、病院から帰宅後、かつてないくらいしょんぼりしてしまった。「今なら爪が短いから、猫パンチも痛くない。撫でることにトライしてみては」とアドバイスをもらい、ダメ元でそっと手を出すと、なんと、はじめて触ることができた!

9月。毎日少しずつ、触れるようになっていく。最初は指の先で少しだったのが、やがて手のひらで撫でられるように。気持ちがいいらしく、撫でてほしいときは呼び鳴きするように。機嫌がいいと喉を鳴らすことも。

10月。ついに両手で撫でられるようになる。わしわしと頭を撫でられるのがお気に入りに。威嚇も猫パンチも、ほぼすることはなくなった。名前を呼ぶとお返事することが増え、普段一緒に生活していない私にも、緊張しながらも撫でさせてくれるように。

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私の手。一眼レフを構えながらでも、撫でさせてくれた!

以上が、1月に仕事場に来てから今までの、ゆるちゃんの変化です。大まかな流れだけを書きましたが、やってみてうまくいかなかったこと、一瞬距離ができてしまったことも、たくさんあります。試行錯誤の9ヶ月間でした。

「この子はもう馴れないかも」ゆるちゃんのお世話をする中で、何度もその考えが頭をよぎりました。けれどそのたびに、猫ボランティアさんがこう励ましてくれました。

「時間はかかることもあるけど、私の知る限り、人に馴れなかった猫は1匹もいません」

その言葉どおり、少しずつ、一見わからないくらいのわずかな変化を繰り返して、警戒を解いていってくれたゆるちゃん。今振り返ってみると、9ヶ月前と今では、まるで別の猫のようです。

もちろん、我が家の猫たちと比べたら、まだまだできないこと、させてくれないことはたくさんあります。ゆるちゃんの心の奥に灯った小さな信頼の火を、大きく育てるべく、これからも私たちは、注意深く見守っていくつもりです。

実は今、カフェは無理でも、一度お試しで譲渡会に参加させてみてもいいかも、いう話も出ています。

ゆるちゃんと私たちのその後は、またどうか報告させてくださいね。



※第19回の更新は12月3日(土)予定です。


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猫のまもりびとライター紹介

あさのますみ

声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。

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カテゴリ: 猫のまもりびと
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