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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

猫のまもりびと

2022年07月02日

第14回 ミルクボランティア


「本気の譲渡会」という、次々と里親さんが決まる譲渡会がある――先日、猫ボランティアさんから、そんな情報を教えてもらいました。「本気の」というネーミング、なんだかすごく気になる! さっそくインスタグラムをのぞいてみると、次々と更新されるかわいい猫たちの写真、そしてそこに添えられた、猫の性格、出自、癖や好きなものなどの、きめ細やかな情報。「本気の」という名のとおり、熱意あふれる素敵なアカウントでした。

それからブログを読ませていただくと......なんと「本気の譲渡会」主催者である西村さんは、ミルクボランティアをされているではないですか!

ミルクボランティアというのは、授乳が必要な赤ちゃん猫を預かり、ミルクをあげるボランティアさんのこと。以前このコラムでも、えつこさんが赤ちゃん猫を育てる姿を取材させていただきましたが、その過酷さは、私の想像をはるかに上回るものでした。

定期的に譲渡会を主催しつつ、ミルクボランティアもするなんて、ぜひともお話うかがいたい! ということで私は、まずはミルクボランティアについて取材させていただくため、西村さんのご自宅にお邪魔したのでした。

「わー、いっぱいいるー!」

思わず声が出てしまいました。西村さんのご自宅の一室の、赤ちゃん猫のための部屋。日当たりのいいそこにはケージが4つ並べられ、それぞれ3匹から5匹の子猫が、くっつきあってくつろいでいます。はあああ、なんてかわいい姿! こんなにたくさんの子猫を見るの、はじめて。それにしても、この子たちをみんな、西村さんお一人で育てたのですか?

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「はい。今現在は20匹の子猫がいるんですが、みんな無事に育ってくれて、授乳してるのは4匹だけなので、小休止って感じです。保健所から引き出した子や、多頭飼い崩壊の現場からレスキューした子、保護した猫が出産した子......うちに来るのはそんな子たちがほとんどです」

いや、4匹でもすごいです。だって赤ちゃん猫って、とんでもなく小さいし、弱いですよね?

「そうですね。例えばこのケージの子たちは、普通の赤ちゃん猫が平均100グラムで生まれてくるところ、60グラムしかなかったので大変でした。何度も三途の川を渡りかけて、1日に3回動物病院に連れて行ったり」

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60グラムでやってきた男の子。今はこんなに大きくなりました。

えええ、60グラムって、卵1個分の重さ! そんな小さな子、授乳だけでも大変なのに、通院もその頻度でするなんて。想像しただけで、肉体的にも経済的にも、あまりの過酷さに胸が熱くなります。

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「一番大変なときは、睡眠時間は1日2時間くらい。赤ちゃんはちょっとしたことで急変するし、全く目が離せない時期もあります。猫には発情期があるので、頭数に増減はありますが、基本的に授乳が必要な赤ちゃん猫は、通年育ててます。もうすぐまた入ってくる予定がありますし」

すごいなあ。私は何度かしか授乳したことないけど、それでも、小さな命を預かるプレッシャー、緊張、そしてストレスはものすごく大きいものがあったのに......。

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排泄を促される赤ちゃん猫たち。


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3週間後に再度お邪魔したら、上の写真の赤ちゃん猫たち、こんなに成長してました。

と、思わず無言になる私の足に、なにやら柔らかい感触が。見るとそこにいたのは、ケージから出てきたかわいい子猫たち。西村さんの手で授乳されて育てられた子猫たちは、手の優しさをよく知っているのか、とにかく人懐っこい。カメラを構える私にも臆せず近づき、ゴロゴロと喉を鳴らしてくれます。

ミルクボランティアさんというのは、命を繋ぐだけでなく、人間への信頼感も一緒に育てるのだなあ。そう思わずにはいられませんでした。

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それにしても西村さんは、どういうきっかけでミルクボランティアをはじめたのでしょうか。

「私、はじめて拾った子猫を、たった10日ほどで亡くしてしまって。原因も分からないまま、最期はとても苦しんで逝ってしまいました。それがとにかくショックで、なぜ救えなかったんだろう、どうして死んでしまったのと、昼夜問わず調べずにはいられなくて。そうする中で、保護すべき猫たちがたくさんいること、そういう活動をしている人たちの存在を知ったのです」

実は私自身も、かつてはじめての猫を突然死という形で失っています。だから、亡くなった原因が分からない行き場のない苦しさは、とてもわかる、と思いました。

「毎日泣いて暮らしていたけど、こうしてるあいだにも、命の危険にさらされている猫がたくさんいる。なにかしなくちゃ、と思って、保護団体から猫を迎え入れたんです。その後、SNSを通して知ったミルクボランティアさんに『私にお手伝いできることありませんか』とご連絡しました」

それが、ほんの5年ほど前のこと。そこから今や年間80匹の猫を保護し、ミルクボランティアをし、「本気の譲渡会」を主催するまでになった、西村さん。

思いの強さを感じつつ、次は「本気の譲渡会」について、取材させていただくことになりました。

続く


※第15回の更新は8月13日(土)予定です。


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猫のまもりびとライター紹介

あさのますみ

声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。

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カテゴリ: 猫のまもりびと
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