いらっしゃい。父さんの農作業の長靴の陰から失礼するよ。
僕の名は、ルイ。
見ての通り、ビビリなんだ。でも、基本的に人は大好き。
玄関を挟んだあっちの部屋にいるのは、妹のひなた。きっとシャー!されると思うけど。
あ、やっぱりシャーされたんだね。
妹は、ちょっと気難しいところがあってね。
僕たち、5年前に保護されて、このおうちに揃ってもらわれてきたんだ。
5月3日だったよ。まだ2カ月ちょっとくらいで、父さんも母さんも「可愛い、可愛い」って、それは可愛がってくれた。
農家の庭は広いから、いろんな鳥や蝶々がやってきて、縁側から並んでそれを眺めるのが大好きだった。
何をするのもいっしょの仲良し兄妹の僕たちを、母さんはその年の地元の「ネッコワーク展」にパネルにして出品したんだ。母さんは、紹介文にこう書いた。ひなたは「かしこい女の子」で、僕は「ビビリな男の子」って。まあ、その通りなんだけど。会場に来た人たちも「仲良し兄妹ですねえ」って、目を細めてた。
その頃には、僕は、4.4キロ。ひなたは3.6キロで、体格に差が出てきた。
でも、ちっちゃい時から、いつもくっついて寝てた僕たち。
春だって、夏だって、秋だって、冬だって。
ちゃんと猫ベッドは2つあるのに、おんなじベッドにギュウギュウに入ってた。
これは共同作業の僕たちのアートだよ。
母さんが振ってくれる猫じゃらし。ついつい、いつも僕の方がハッスルしてしまうんだ。
これは、母さんが2年前の秋にネッコワーク展に出品したパネル。
すっかり大きくなった僕たちのゆる~い日常が写ってるでしょ。
これは、父さんが出品した絵。僕が掃除機のコードにじゃれついて、ひなたがシラケて見てる。
でね、この後の冬のことなんだ。
なぜか、クリスマスを前にして、ひなたが僕のこと毛嫌いし始めたの。
近づくだけで、シャ~!ってものすごい形相になって、とことん追いつめるんだ。
気の弱い優しい僕は、逃げ惑うばかり。どこまで逃げても、追いつめてくる。兄が妹を怖がる。そんな日が続くので、父さんたちは、とうとう僕たちを隔離した。
僕は玄関の右側、ひなたは玄関の左側。完全別居が始まった。
僕にも、父さん母さんにも、ひなたの気持ちがわからない。
僕たちは、とっくに手術済みで、完全室内飼い。ひなたは具合が悪いとかは全くなくて、僕と別居後は元気にのびのび暮らしてる。
父さんたちは、僕たちを平等にうんと可愛がってくれるから、僕、寂しい思いはしていないけど、やっぱりあっちの部屋にも行きたいな。
なんとか少しずつよりを戻させたいと、母さんは近づけてためしてみたりするけど、境界線の真ん中の玄関に僕の気配を察すると、ひなたは気がたつみたい。
母さんの推理は、大きくなった僕がじゃれついたかなんかの時、、ひなたが恐怖を感じることがあったんじゃないかって。僕には、覚えがないんだけどなあ。
「二人があの頃のようにまた仲良くなってくれるのが、夢」と、母さんは言う。
僕だって、妹と一緒に遊んで、ひなたぼっこしたい。
僕たちの間に何がおきたのか、同じような経験をした飼い主さんがいたら、教えてほしいなあ。
僕たちがまた仲良くなったら、マリコさん、また取材に来てね!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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