ページ内を移動するためのリンクです。
ここからメインコンテンツです

[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2017年08月29日

海を眺める猫

「さあ、ついたよ」
車の助手席から下ろした愛猫グーちゃんをひょいと肩に乗せ、Yさんがやってきたのは、房総「明鐘(みょうがね)岬の先端にある喫茶店「岬」。
珈琲と音楽と海を愛する人たちが集う店です。

20170829-1.jpg

いつものように、Yさんはグーちゃんと一緒に海を間近で楽しもうとしましたが・・・。
「今日は、風が強いから、崖っぷちはいやっ」と、ぐーちゃん。くるっと向きを変えてしまいました。うららかな日だったら、岩場を散策するのがお気に入りなのですが。

20170829-2.jpg

ふたりの出会いは、4年前。
Yさんが買い物に行ったスーパーの壁に「子猫もらってください」の貼り紙がしてあったのです。

以来、二人はいい相棒。
グーちゃんは小さい時から車の助手席に乗って、しょっちゅうドライブを楽しんでいます。
きょうは、Yさんがふと立ち寄って以来すっかり気に入った「岬」へまたやってきました。

20170829-3.jpg

他にお客さんがいなかったので、グーちゃんも店内に入れてもらえました。
ここからも、海が真正面に見えます。
さまざまな汽船が行き交って、晴れた日には富士山がくっきり見えるのです。

20170829-4.JPG

南側の窓からも、海が。
1時間いるだけで、海や空の色が刻々と移ろうのを楽しめます。

20170829-5.JPG

グーちゃん、Yさんがコーヒーを飲む間、店内ですっかりくつろいで、また車の助手席に乗り込んで帰っていきました。
海を眺めに行くドライブに誘ってもらえる猫さん。しあわせですね~

「岬」の営業時間は、日没まで。
ふっと客が途絶えた時間や、閉店後に、「岬」のオーナー節子さんは、毎日眺めても決して見飽きることのない大好きな海を眺めます。
足元には、シロちゃん。

20170829-6.jpg

「今日は、富士山がぼんやりしか見えないわね」
シロちゃんに話しかける節子さん。

20170829-7.jpg

あまり人前には顔を出さないので、知らない客も多いのですが、岬には3匹の猫がいます。
白黒のプーちゃん(14歳)、サバ白のサバちゃん(13歳)、白猫のシロちゃん(7歳)。
節子さんと、3匹の猫たちは、試練の日々を超えた「同志」です。

20170829-8.jpg

6年前の1月。「岬」は、火事で全焼しています。猫たちが暖かいようにと思いやったことが思わぬ失火に繋がってしまったのでした。

この店が大好きだった私は、新聞の地方版に出た「岬の喫茶店全焼」の小さな記事を見て、猫毛布などをもって駆けつけました。
節子さんは「大事なレコードも、お客さんの落書き帳も、思い出の品も、すべてなくなってしまった・・・」といいながら、「猫たちは思い思いに裏山に逃げてまだ姿を見せない。でも、3匹とも無事みたい」と、胸をなでおろしていました。

10日後、猫たちは跡形もなくなった焼け跡に帰ってきました。
岬を愛する人たちが、それぞれできることを始めました。
節子さんに仮住まいを提供する人、猫たちに餌を毎日運ぶ人、「ママの無事な顔を見たい」と遠くからバイクで駆けつける若者・・・。

20170829-9.jpg

焼け跡に最初にできたのは、猫たちの餌場。
店の再建を望む声が続々と届きます。
すべてなくした節子さんの胸に再建という希望の灯を灯したのは、人々の温かさに加え、海と猫の存在だったといいます。

20170829-10.jpg

「焼け跡で、猫たちが海を眺めながら風に吹かれているのを見て、気づいたの。私が失くしたのは『モノ』。みんなが岬を愛する気持ちも、目の前の海も、何事もなかったかのようにここで暮らす猫たちも、何一つ変わってないんだ、って」

20170829-11.jpg

「岬」は、基礎工事を業者に頼んだ以外は、テーブルもデッキもトイレもすべて客の大工奉仕や持ち込み品で、2011年12月に再建しました。
鋸山の湧水でいれる珈琲がとてもおいしく、運がよければ猫たちに会えますよ。

20170829-12.jpg

そして、いつでも、海は目の前にあります。

20170829-13.jpg


「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

satoyamanoko.jpg
里山の子、さっちゃん
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。

shiawaseni.jpg
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!


写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

Instagram

カテゴリ: 道ばた猫日記
  • ツイート
  • いいね!

みにゃさまのコメント

こんな人情あふれるお話がまだまだ日本にあることにほろりと来ました。
おばちゃんの気づきの言葉が深いです。そんなおばちゃんだからこその人柄が、ねこと、このお店を形作っているんですね。
ねこたちとゆっくり沈む夕日を眺めながら過ごす時間。。。なんて贅沢な生き方なんだろうと感じます。

by あずにゃん 2017-08-29 18:00

>あずにゃんさん

世の中捨てたもんじゃない、と思えること、きっといろんな町にひっそりとあるんでしょうね。
そして、人生、いろんなかたちの「贅沢」や「しあわせ」があるんだと思います。猫好きには猫は欠かせませんが…(笑)。

by 道ばた猫 2017-08-30 02:31

ここは確か映画のモチーフになった喫茶店ですよね?
行ってみたくなりました(^_^

by ターのまま 2017-08-30 07:55

毎日この景色を見ていたら大きな気持ちで生きていけそうです。お客さんたちにも大切な場所なんですね。
やっぱりそこに猫がいるのがとても似合います。

by さりゅ 2017-08-30 08:09

>ターのままさん

そうです、そうです。人生の機微を描く名手の作家森沢明夫さん(この店を愛する客のひとり)によって「虹の岬の喫茶店」という小説になり(実話ではなく、創作)、それっを原作に、3年前にこの地をロケ地として「ふしぎな岬の物語」という映画になりました。

by 道ばた猫 2017-08-30 08:35

>さりゅさん

ほんとうに。猫は、喫茶店によく似合い、海によく似合い、やさしく年を重ねた人のそばがよく似合う。だから、ここは3重に猫が似合う場所なんです~

by 道ばた猫 2017-08-30 08:38

ぐーちゃん、キリリとしたお顔と白いハイソックスをはいているような足が可愛いなぁ!良いかたにもらってもらえて良かったね♪
そして「岬」のお話は感動しました。景色も良いですね。猫達がまた似合いますね。

by とも 2017-08-31 06:54

素敵なお話し、ありがとうございます。

ここには、優しくて、おおらかな愛に溢れた素敵な時間が流れているんだなぁ、きっと。

by みゃおすけ 2017-08-31 11:32

>ともさん

グーちゃん、お天気の日は、海への小道をおりて岩場散策を楽しんだり、テラス席で海を眺めたりするそうですが、この日はあいにく強風。おとなしく店内に入りました~

by 道ばた猫 2017-08-31 23:16

>みゃおすけさん

「岬」は、年中無休。
ここで、珈琲を飲みながら眺める日没は、言葉もないほど美しく、この上なく贅沢な時間です。節子さんはさりげなく、客に合わせた音楽をかけてくれます。

by 道ばた猫 2017-08-31 23:27