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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

ネコノミストの研究室

2018年05月18日

ペット産業のCSR活動

猫部のみにゃさま、こんにちは。ネコノミストの武井です。
しばらくご無沙汰しておりました。

私の所属するシンクタンクは、会社のCSR活動(Corporate Social Responsibility:企業が自主的に社会的責任・社会貢献を行う活動を行うこと)の一環として、社会問題に取り組むNPOにプロボノ支援活動(注1)を行っています。

2016年度のプロボノ活動に、私と北を含む社内の有志のメンバー8名が集まり、岐阜県にある特定NPO法人「人と動物の共生センター 」さん(以下、人と動物の共生センター)と共同で、ペット産業のCSR活動についての白書の作成とそれに伴う調査(文献調査、ヒアリング調査、アンケート調査等)を行い、その2年間のプロボノ活動の成果として、2018年3月に『ペット産業CSR白書』が完成いたしました。

『ペット産業CSR白書』

180517-1.jpg
http://human-animal.jp/pet-csr/(←書籍の購入も可能です)

環境省が発表している平成28年度の「全国の犬・猫の殺処分数」は5.6万頭に上ります。この数字は毎年減少を続けており、都市部を中心に「殺処分ゼロ」の自治体も現れています。しかし、「殺処分ゼロ」の背景には、NPOが保護犬・猫を行政から引き取り(「引き出し」と呼ばれる)世話をすることで達成できているケースも多く、負担が移転されたに過ぎないとか問題は解決していないという指摘もあります。そして、「殺処分ゼロ」になれば、伴侶動物と人の共生問題は解決されるというような風潮にも疑問が残ります。

仮に殺処分されなくとも、多くの犬猫の動物福祉には課題が残っています。野犬野良猫の過剰繁殖、飼い主による飼育放棄、ペット事業者による劣悪な飼育、交通事故による死亡など、殺処分にカウントされない、動物の死、そして、動物福祉の侵害は、殺処分数以上の数発生しています。

人と動物の共生センターの代表であり、今回プロボノ活動で伴奏させていただいた獣医師・獣医行動診療科認定医である奥田さんは、「殺処分問題」が「余剰動物問題」に移り変わろうとしていることを指摘しています。この問題を非常に分かりやすく示した奥田さん作成の蛇口のポンチ図で説明します。

蛇口の絵.JPG
(出所)特定非営利活動法人人と動物の共生センター(2018)『ペット産業CSR 白書~生体販売の社会的責任~』p.13

この図では、余剰動物(犬猫)問題は、上の段の蛇口(入口・余剰犬猫の供給源)と下の段の蛇口(出口・余剰犬猫の処遇)の2つの問題から成り立っていることが示されています。これまでは、下の蛇口への対策、つまり、殺処分を回避するための活動に中心が置かれてきました。その結果、保護団体での保護動物の数が増え、保護団体やボランティアが過剰な負担を強いられています。

今回の白書では、上の段の蛇口について焦点を当てています。つまり、余剰動物を発生させない予防対策が重要だという点です。
特に白書では、一番左の「ペット産業の蛇口」に注目しました。ペット産業から余剰動物が発生する原因は、適切な繁殖がなされず、先天性疾患等のある動物が生まれたり、繁殖引退犬猫を適切に譲渡できないことなどがあります。そして、過剰な数の犬猫を抱えることになってしまった事業者は、犬猫の世話ができず、犬猫は劣悪な環境にて生活せざるを得ないという状況に陥ります。

奥田さんは、動物行動の専門家であり、伴侶動物の問題行動には、ペットショップ・ブリーダーが大きく関わっていると指摘しています。繁殖や育成の方法は、動物の先天的な気質(性格)に大きく影響することや、ペットショップで行われる飼い主指導が、初期のしつけに重大な影響を及ぼすことも示しています。特に、飼い主が、犬の社会化期(生後12週まで)に社会化を行うことの重要性を知っているかどうかは、その後の問題行動の発生に大きく影響します。こういった指導を適正に行うことが、犬猫の問題行動を減らし、捨てられたり、保健所に連れてこられる犬猫の数を減らすという意味で、ペット産業のCSRの一つになります。

今回まとめた白書では、日本のペット産業において、まだあまり理解されていないCSRという概念を分かりやすく伝えることで、ペット産業のなかにもっとCSR活動が浸透し、企業による健全な繁殖・販売活動が行われることを期待しています。それにより、ペット産業の課題の解決につながり、人と動物が共生する地域社会が実現されればよいと考えています。
白書の対象としては、第一にペット関連企業(ペットショップ・ブリーダー・トリミングサロン・動物病院・トレーニングスクール他)の経営者・従事者、第二にペットショップがテナントで入る大手小売業(ショッピングモール・ホームセンター)の経営者・CSR担当者・ペット事業担当者を念頭に置いています。さらに、CSRの推進は、企業の努力だけでなく、社会からの、監視の目も必要不可欠であることから、動物愛護/動物福祉の活動に携わるNPO/NGOや学者等の専門家や、消費者である飼い主の皆さんにもお読みいただければと思っています。

この白書の完成を記念して、6月9日に、弊社でペット産業のCSR活動に関するシンポジウムを開催することになりました。本シンポジウムでは、多様な関係者にお集まりいただき、各個人の利害ではなく、社会全体の持続性を前提に、ペット産業のCSRについて対話を深めていく場としたいと思っています。
猫部の読者の皆様も、ご関心がありましたら是非お越しください。

シンポジウムの詳細はこちら です、シンポジウムへの参加を希望される方は、お申込フォーム(※フェリシモサイト外となります)よりお申し込みください。(定員が80人と限られておりますので、お早めにお申し込みください!)

(注1)プロボノとはラテン語で「公共善のために」を意味し、専門性を持つ職業の人々が、無報酬で行う社会活動を意味します。


ネコノミストの研究室ブログライター紹介

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北 洋祐

京都大学経済学部卒業。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員として、中小企業政策、スタートアップ企業政策の研究に従事。一匹の野良猫を保護して飼い始めたことをきっかけに猫派となり、それ以来ライフワークとして動物愛護分野の研究にも勤しむ。2016年からは、人と猫の望ましい関係について考え発信する「ネコノミスト」として活動。現在は元野良猫のシンスケと保護団体から譲り受けたゴマの2匹とともに暮らす。好きな猫マンガは伊藤潤二『よん&むー』

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武井 泉

市立高崎経済大、東京大学大学院卒業。独立行政法人の研究所等を経て2007年より三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。アジア・アフリカの国際協力事業(農村開発、社会保障等)や、ハラール市場についての業績多数。2015年より、ネコの幸せと人との共生を考える「ネコノミスト」としても活動を開始。現在、5歳の2匹の元保護猫と暮らす。これまで一緒に暮らした猫は40匹以上にのぼる。趣味は、園芸と、海外出張の合間のネコ撮影、ネコグッズの収集。

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