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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

ネコノミストの研究室

2017年08月30日

神野さんに聞く!アメリカメリーランド州での動物支援活動(前編)

猫部のみにゃさま、こんにちは。ネコノミストの武井です。

本日は、猫だけに特化しているわけではないのですが、アメリカメリーランド州ボルティモアで、動物の保護活動に10年以上携わっている神野あきらさんのインタビューをお送りします。

神野さんは、ご家族のお仕事の関係で、2006年にボルティモアに渡り、以降、動物愛護活動NPO法人Sunshine Smileを立上げ、アメリカで活動をしていましたが、2011年の東日本大震災で日本の動物事情を知り、日本の動物福祉の向上、動物情報の周知をサポートしたいと、アメリカの動物事情を資料や動画、ラジオで広める活動内容へと変更しました。

ウェブサイトも非常にかわいらしく親しみが持てるデザインで、掲載されている情報は、動物のレスキューの具体的な方法、動物愛護教材、動物愛護に関するラジオ番組(動画・音声)の発信、アメリカの動物愛護の政策・法律まで幅広いものとなっています。

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神野さんのNPOであるSunshine Smileのウェブサイト
https://ja.sunshinesmile.org/

武井:神野さん、本日はよろしくお願い致します。

神野さん(以下、敬称略)こちらこそよろしくお願い致します。

武井:神野さんが動物愛護活動を始められたきっかけがとてもユニークですね。

神野:もともと母が地元の京都で野良猫の保護活動をしていて、私も猫や犬が好きだったので、帰省の際には手伝ったりもしていました。2006年に家族の仕事の都合でボルティモアに在住することになり、1年間は無料で地元の大学の英語クラスに通うことが出来たんですね。ですが、2年目以降は有料になると聞いて、なんとなくもったいない気がしまして(笑)。であれば、好きなことをして英語を学んだ方が良いと思ったんです。

そんな中、ボルティモアで、地元で遺棄されたり虐待されたペットを保護し、ケアをした後、新しい飼い主に譲渡するという活動のボランティアがあることを知りました。そして、メリーランド州のSPCA(動物虐待防止協会)であるMDSPCAで、ボランティア活動を始めました。MDSPCAでは、3年ほどボランティア活動をしていました。その間、ある動物レスキュー団体にも所属し、虐待、ネグレクト、放棄された動物達をレスキューする活動も行っていました。活動には地元のアメリカ人とのコミュニケーションは必須ですから、気づけば動物に関わる会話は英語でできるようになりました。

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神野さんが野良猫支援を行う地域の一例(写真:神野さんご提供)

武井:活動する間にも研修を受けられたりしたとのことですが。

神野:アメリカの代表的な動物愛護団体の1つである、全米人道協会(Humane Society of the United States: HSUS)の認定のEmergency Animal Sheltering Training(災害時動物支援&救援トレーニング)も履修しました。

武井:メリーランド州は動物愛護のランキングで50州の中で14位と、かなり動物愛護に対して意識の高い州のひとつだそうですね。

神野:はい、そうです。メリーランド州ボルティモアで犬や猫を飼う時の制度も簡単にご説明しますと、飼い犬は行政に登録する制度があります。ただし、登録していないからといって特に罰金を科せられるわけではないため、登録しないで犬を飼育している人も多いです。また、ペットホテル、ドッグパークは営業ライセンスを有していないと営業が出来ません。また、ボルティモア市のルール では、犬も猫も3匹までしか飼育できず、それ以上の飼育をする場合は、ケンネルのライセンスが必要となります。アメリカの動物愛護制度や法律は、州レベル、市または郡レベルと、それぞれの法令・条例があるので注意が必要です。

武井:野良犬、野良猫はどんな状況なのでしょうか。

神野:野良犬・猫等は、愛護団体やレスキューで保護・捕獲された後、シェルター(アニマルコントロール)で保護されます。アメリカのシェルターは、大きく分けて3種類あります。1つ目は、キルシェルター(州運営の動物管理局所轄の殺処分所)、2つ目はノーキル(No-kill)シェルターまたはローキル(Low-kill)シェルター(州営または非営利団体の運営によるもの。できるだけ殺処分を行わず、動物の譲渡等を行う)、3つ目は、完全ノーキルシェルター(非営利団体の運営)です。昔は、シェルターに収容された動物は全て殺処分されることが多かったですが、この数十年の各自治体と動物愛護団体の取組みにより、殺処分数は大幅に減少しています(全米の殺処分数は、1970年代の約2,000万頭から2014年には約300万頭と減少しています(HSUS推計。ただし推計値は機関によって異なります))。

武井:なるほど。アメリカの人口は日本の2倍ありますし、国土は広大ですし、単純に比べられませんが、300万頭も動物が殺処分されているんですね。

神野:そうですね。アメリカ国内には動物愛護団体が本当に沢山あり、シェルターも公営のものから、行政がNPOに委託して運営しているもの、またNPOが独自に運営しているもなど様々な形態があります。

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神野さんもボランティア活動をしていたMDSPCAの猫シェルター(撮影:武井)

神野:私の活動しているエリアでは、猫の色や柄で譲渡率が異なるように思います。一番は茶トラ(brown, red, orange tabby)が一番人気、次に三毛猫(calico)やグレー、白黒も人気です。他方、サバトラとキジトラは不人気で、黒猫は一番譲渡率が低いです。黒猫はし、殺処分の数も多いと聞きます。ですので、各シェルターも黒猫の譲渡にはかなり力を入れており、譲渡料が半額だったり、ハロウィン時にキャンペーンをしたりしています。

武井:私は黒猫大好きですが、不吉というイメージが付きまとってしまうんですね。残念ですね。犬はどうですか?

神野:犬はピットブル(アメリカン・ピット・ブル・テリア)、シェパード、ロットワイラーといった、大型であごの力が強い大型犬が人気です。しかし、こうした大型犬は飼い主に忠実な犬種ではありますが、適切な飼育をしないと非常に危険ですし、成犬になってからしつけすることは難しいとされています。
メリーランド州では、野良猫は多いですが野良犬はほとんどいません(ただし、隣のウェストバージニア州の場合は、捨てられた犬や放し飼い犬もいます。州によって犬の飼い方の条例が異なるためです)。

野良犬は、レスキューまたは捕獲しされ、シェルターやフォスターファミリー(一時預かりのボランティア)で医療ケアや必要なしつけなどを施されたあと、新しい飼い主さんに譲渡されます。が、野良猫の場合は、犬のようにレスキュー・保護、譲渡というプロセス以外に、地域猫(Community Cat)として、TNRで地域に戻す活動も行われています。

武井:TNR活動は、賛否両論ありますが、アメリカ、ボルティモアでは野良猫対策としてメジャーな方法ということですか?

神野:そうですね。私の活動している市は、2007年からTNR活動が法的に認められたことから、格安の不妊手術の恩恵や野良猫捕獲のためのわな(トラップ)の貸し出しなどの支援を行政から受けることが出来できるようになりました。近年では殺処分ゼロのために、公営でも私営のシェルターでも、野良猫の引き取りや殺処分を減らし、その代わりTNRを推奨する傾向が強くなってきています。
TNRして地域に戻った野良猫が、野生動物を殺してしまうとか、糞尿がひどいとか、猫への餌でネズミが寄ってくるなど、活動を行う地域によって確かに課題はあるかと思います。ただ、そういったことは認識しつつも、屋外でなければ暮らせない猫、というのも存在します。

どうしても人慣れしない猫、家の中でも暮らせない猫達は、バーンキャット(barn cat:小屋の猫の意味)と言って、農場や牧場、倉庫などでネズミ捕りの達人(猫)として住み込みで働く、ワーキングキャットとして飼われることもあります。ボルティモアは競馬が盛んで、牧場や農場がたくさんあるため、1度に2匹、3匹ワーキングキャットを飼いたいと言う需要がけっこうあります。このワーキングキャットのように、日本でも地域に戻せない猫達の第3の選択肢があるといいなと思います。
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バーンキャットとして働く元野良猫(写真:提供:Horsey Heaven)

神野:メリーランドで犬や猫の譲渡数が増え、殺処分ゼロへの取組みが有名になってくると、また別の課題も生まれます。例えば、「シェルターに持っていけばペットは殺されずにすむ」と罪悪感なくペットを飼育放棄する飼い主さんも増加しています。
猫の例で言えば、爪除去手術というのを聞いたことがありますか?日本ではあまり聞かないかもしれませんが、家具を引っかいたりしないために、猫の爪を全部除去する手術のことです。アメリカでは、かつては飼い猫に手術する例が割合あったようです。遺棄された猫の中には、爪の除去手術まで受けさせられたのに、シェルターに持ち込まれたり、捨てられたりする子も少なくありません。爪を除去されてしまった猫は、高いところに逃げたり、喧嘩することもできず、外猫として暮らすことができません。また爪を除去した指が萎縮していたり、中で炎症を起こしてしまっていることもあります。猫にとって爪を奪われることは、指の先を切られるほどつらい、と表現する人もいます。

そのため、猫の爪除去手術は8つの州で動物虐待に当たる違法行為として禁止されていますし、メリーランド州でも猫を委譲する際には、契約書に「爪除去手術はしません」とサインさせるシェルターや団体がたくさんあります。(詳細は神野さんのブログのこちらの記事 )。

武井:なんとも悲しい話ですね・・・。

神野:他にもあります。アメリカでもどこの動物シェルターも満杯のことが多く、シェルター運営団体は飼い主を探す手伝いはするけれども、里親が見つかるまでの間は、保護した人が一時預かりして欲しい、と言うケースも多いです。そうすると、猫を早急に手放したい飼い主・保護主は、craigslistなどの個人売買のサイトを利用して子猫の里親募集をしたりします。

他方で、闘犬はアメリカ全土で違法ですが、ボルティモアでは闘犬がまだ一部行われているところがあります。その闘犬のイベントで、ピットブルやロットワイラーのように闘犬として戦わされる犬だけが犠牲になるのではなく、小型犬や猫もファイトを盛り上げるための「おとり」としてリング放り込まれ、闘犬に噛み殺されています。この「おとり」に、上記の個人売買でもらわれた猫が犠牲になってしまうケースがあります。

武井:日本でも、ネット上のサイトでの譲渡活動はかなり慎重になっている方も多いですよね。譲渡の際に、面談をしたりお宅訪問をしたりというのは、やはり重要ですね。

まだまだ話はつきませんが、後半に続きます。

※2017/10/13追記:一部記述を修正いたしました。
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ネコノミストの研究室ブログライター紹介

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北 洋祐

京都大学経済学部卒業。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員として、中小企業政策、スタートアップ企業政策の研究に従事。一匹の野良猫を保護して飼い始めたことをきっかけに猫派となり、それ以来ライフワークとして動物愛護分野の研究にも勤しむ。2016年からは、人と猫の望ましい関係について考え発信する「ネコノミスト」として活動。現在は元野良猫のシンスケと保護団体から譲り受けたゴマの2匹とともに暮らす。好きな猫マンガは伊藤潤二『よん&むー』

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武井 泉

市立高崎経済大、東京大学大学院卒業。独立行政法人の研究所等を経て2007年より三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。アジア・アフリカの国際協力事業(農村開発、社会保障等)や、ハラール市場についての業績多数。2015年より、ネコの幸せと人との共生を考える「ネコノミスト」としても活動を開始。現在、5歳の2匹の元保護猫と暮らす。これまで一緒に暮らした猫は40匹以上にのぼる。趣味は、園芸と、海外出張の合間のネコ撮影、ネコグッズの収集。

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みにゃさまのコメント

「地域猫」という迷惑行為を助長する記述は止めなさい。

by 名無し 2017-10-09 21:32

勉強になります
>TNRして地域に戻った野良猫が、野生動物を殺してしまう
アメリカだけでなく、日本でも深刻な問題ですね。

by 五徳猫 2017-10-13 02:46