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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

ネコノミストの研究室

2017年08月09日

世界の猫助けNPO:アメリカ編

みにゃさま
さて、本日は前回に引き続き、猫の支援を専門にする海外のNPOのご紹介です。

アメリカで猫専門の支援を行っているNPOと言えば、メリーランド州にあるAlley Cat Allies(以下、ACA)が挙げられると思います。
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(本部:アメリカメリーランド州

アメリカにおける猫をめぐる状況

ACAのことをご紹介する前に、簡単にアメリカの猫をめぐる状況についてご説明します。アメリカはご存じの通り、50の州(state)からなり、その州の下に3,100の郡(county)(注)があり、さらにその下に3万以上の自治体(市、区、町等)があります。

猫や野良猫に関する政策は、連邦法や州法にももちろんありますが、より具体的な対策やルールは日本の都道府県にあたる郡のレベル、またはその下の自治体の条例などで規定されています。
例えば、アメリカでも日本と同様、犬の登録を義務付けている自治体は多いです。しかし猫の登録に関しては、いくつかの自治体が登録を義務化しているものの(例:カリフォルニア州オレンジ郡、サンタクララ郡、ミネソタ州ミネアポリス市、ワシントン州シアトル市、テキサス州アーリントン、ワイオミング州等)、少数派のようです。

日本の保健所にあたるAnimal Control(以下、シェルター)は、郡レベルでの公共施設として運営されています。ただし、郡がシェルターを直接運営している場合と、運営を動物愛護・レスキュー団体に委託している場合の2種類があります。

アメリカのシェルターは、大きく3つに分けられ、1つはノーキルシェルターと呼ばれる、殺処分を行わず、譲渡により保護犬・猫を支援する施設、2つ目は、ローキル(Low-kill)シェルターで、できるだけ殺処分を行わず、動物の保護・譲渡等を行うが、やむを得ず(深刻な病気や怪我、危険種等)殺処分を行う施設、3つ目は、キルシェルターで殺処分を中心としたシェルターです。
アメリカには、こうしたシェルターが全国で約5,000あると言われています。また、動物愛護団体は約1,400もあるとのことです。


ACAは猫専門のアドボカシ―NPO

さて、話をACAに戻すと、ACAは、1990年に設立者であるBecky Robinson氏が、ワシントンDCに立ち上げた組織です。ACAは、ACAそのものが猫のレスキューや支援等を行っているわけではなく、ACAのメンバーになっている複数のNPO(約2,000団体。多くは2-3人の小規模な団体)を取りまとめる組織であり、傘下にある保護団体への猫の保護活動への支援、猫に関する教材・教育の提供、保護団体へのアドバイス、猫の保護に関する政府への提言、市民への啓発活動などを主な活動としています。

Robinson氏はもともと地元で野良猫の支援を行うソーシャルワーカーでしたが、ACAの設立当時の1990年代の初頭には、行政もNPOも組織として野良猫を支援するという状況になく、TNR活動もそれほど盛んではなかったといいます。そして当時は、野良猫は見つけられればキルシェルターに連れて行かれ、殺処分されてしまうのが一般的であったといいます。

そこで彼女は、ACAを立ち上げた後、1991年に野良猫支援ネットワーク(the Feral Friends Network)設立し、全米各地の野良猫支援のNPO等とネットワークを構築するようになりました。その後は、各州に支部を持つ動物虐待防止協会(SPCA)のサンフランシスコ支部と共同し、TNRに関するガイドラインやファクトシートを作成し、TNRの促進プログラムを実施しています。

初めはRobinson氏ともう1名で始めたこの団体も、2017年7月現在、本部に従業員43名(+猫2匹)ものスタッフが勤務し、年間720万ドル(約8億6,000万円程度)!もの寄付金額を扱う大きな組織 となっています。ACAは、行政からの補助金等は一切受けていないそうで、収入は100%寄付金(一部イベントでの売上等も含む)であり、主に個人からの寄付が多いといいます。ACAには、現在世界中の65万人の会員を有しており、そのうち毎月の会員費(寄付金)を支払っている約2,000人からの寄付が大きな財源になっているそうです。


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ACAのスタッフ、クロネコのOliverが入り口でお客さんをお迎えしてくれます
(出所:ACA Facebookウェブサイト


ACAの地域猫(コミュニティキャット)の取り組みについて

Robinson氏は、地域猫と市民との共生のためには、小さな成功事例を積み重ねていくことが重要、と言っています。ACAのTNRのガイドラインとファクトシートは、全米4,000ヶ所以上のNPOやシェルターに配布され、TNR活動は西海岸まで波及してきました。そういった取り組みもあり、1990年代半ばには、各州の条例で野良猫の管理のため、TNR条例が施行されるようになったということです。

ACAも、猫や地域猫に対する理解を促進するための、様々な教材を準備しています。ACAのウェブサイトで、下記の教材(PDFや動画)等を見ることができます。
●地域猫に関する近隣住民の理解を促すための教材
https://www.alleycat.org/community-cat-care/educate-your-neighbors/
●TNR活動(保護、手術、地域に戻す等、各プロセスが詳細に説明されている)
https://www.alleycat.org/community-cat-care-category/tnr/
●上記の動画が全て配信されているページ
https://www.alleycat.org/our-work/trap-neuter-return/

アメリカの行政や動物愛護団体のどちらも、飼い猫に対して不妊・去勢手術を奨励していますし、シェルターで保護され、新しい飼い主のもとに譲渡される猫達はほぼ100%不妊・去勢手術を施されます。
しかしながら、ACAの推進するTNR活動に対して、特にR(地域に戻す)部分に関しては、賛否両論があるようです。
というのも、現地調査や文献調査で調べてみた結果、TNR活動を推進する自治体も多いものの(2013年と2014年のACAの調査によれば、全米で500の自治体がTNR支持の条例を施行しているとのこと)、すべての自治体がTNR活動を推進しているわけではないことが分かりました。特に、Returnの部分については懐疑的な意見もあり、特に野生動物の保護とTNR活動・地域猫活動は、なかなか両立が難しい(不妊・去勢手術をした野良猫が野生の動物を襲い野生動物の個体数が減少または絶滅の危機に瀕してしまう場合もある)という意見もありました。 イギリス、ドイツの動物愛護の専門家も、TNRによるネガティブな要因(TNRで地域の野良猫の数が減らないケースもあること、感染症の予防にはRの部分は不適切であること等)に触れた上で、TNR以外の代替策がないとも話していました。


ACAのその他の活動

ACAは、啓蒙活動(アドボカシ―)団体として、1990年代半ば以降一貫して、TNRの推進に関する提言を政府や自治体に提出したり、獣医師と連携したり、様々なワークショップや会議に出席し、猫のTNRや不妊・去勢手術の普及活動を行っています。

特に、ACAが実施している不妊・去勢プログラムでは、猫の去勢(25ドル~)、不妊手術(100ドル~)を低価格で市民に利用してもらえるようなものになっています。特に、低所得者の猫飼育者には無料で不妊・去勢手術を行っているそうです。

また、不妊・去勢手術には、獣医の技能訓練が不可欠であり、獣医師が1匹に掛ける手術時間が短くなればなるほど、多くの猫を助けられる上、コストも減らすことができるとの考えから、Humanate Rescue Alliance (ワシントンDCに本部を置く動物愛護・レスキューNGO)と提携して獣医師の技能訓練プログラムも実施しているとのことです。

ACAが本部を置くメリーランド州は、税収が少ないため、行政の資金があまり動物保護に使われていないことが課題だそうです。かつて、州内の行政が運営するシェルターでは、基本的に保護犬・猫は殺処分されていたものの、ACAが長い間働きかけた結果、殺処分に資金を投入するくらいならば、譲渡や不妊・去勢手術の費用に充て、1匹でも多くの猫を救う方が良いと考える行政官が増えたそうです。

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ACAの代表Robinson氏とスタッフの皆さんと


(注)ルイジアナ州では parish、アラスカ州では boroughが郡(county)に相当する。

日本では、猫の支援を行うNPOは多数ありますが、NPO同士を束ねて知識・ノウハウを共有(資金も共有)といった取組みはあまり見られないと思います。ACAでは、法律の専門家や、広報担当、SNS担当など、多数の専門家が集まり、一丸となって猫を支援しています。こういった組織が日本にも必要なように思いました。



ネコノミストの研究室ブログライター紹介

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北 洋祐

京都大学経済学部卒業。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員として、中小企業政策、スタートアップ企業政策の研究に従事。一匹の野良猫を保護して飼い始めたことをきっかけに猫派となり、それ以来ライフワークとして動物愛護分野の研究にも勤しむ。2016年からは、人と猫の望ましい関係について考え発信する「ネコノミスト」として活動。現在は元野良猫のシンスケと保護団体から譲り受けたゴマの2匹とともに暮らす。好きな猫マンガは伊藤潤二『よん&むー』

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武井 泉

市立高崎経済大、東京大学大学院卒業。独立行政法人の研究所等を経て2007年より三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。アジア・アフリカの国際協力事業(農村開発、社会保障等)や、ハラール市場についての業績多数。2015年より、ネコの幸せと人との共生を考える「ネコノミスト」としても活動を開始。現在、5歳の2匹の元保護猫と暮らす。これまで一緒に暮らした猫は40匹以上にのぼる。趣味は、園芸と、海外出張の合間のネコ撮影、ネコグッズの収集。

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