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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

ネコノミストの研究室

2017年07月12日

「魔性」を失った猫たち ~猫コンテンツブームの背景にせまる~

猫股(ねこまた)

猫また.jpg
<出所>佐脇嵩之『百怪図巻』より

前々回の記事 では、最近の「猫ブーム」の正体について、いくつかの分析を試みた。

そこでの結論は、「最近は猫ブームと言われているけど、実は猫を飼う人が増えているわけではなくて、猫関連のコンテンツ(本や映画やゲームなど)が急増していて、それがブームを形成している」というもの。

そうなると、次に気になるのは「なんで猫コンテンツのブームが起こっているのか」ということだ。今回は、この猫コンテンツブームの背景について少しだけ考えてみることにしたい。(猫ブームが始まった時期は、いまいちはっきりしないのだけれど、少なくとも10年前から猫コンテンツの増加が起きていることは確かで、ここでは2007年から現在までを猫コンテンツブームの時期と位置付けることにする)

猫コンテンツブームの背景。今回、このテーマについて考えるために、古今東西の猫コンテンツを眺めていて、その中で気づいたことが一つあった。それは、昔の猫コンテンツは「猫の神秘性や魔性」を題材にしたものが非常に多い、ということ。そして、現在の猫コンテンツは、そういったものが減って、代わりに「猫のかわいさ、愛らしさ」を題材にしたものが増えている、ということだ。このコンテンツの性質の変化から、ここ10年の猫コンテンツブームの背景について考えることができるかもしれない。


猫は不思議で神秘的、ときに魔性を秘めたものとして描かれてきた


猫は古くから、穀物や書物などをネズミの害から守ってくれる「有益な」動物として、人間社会に根付いてきた。一方で、猫はその瞳の形が変化する様や超然とした態度などが、どこか神秘的な印象を与えるようで、例えば平安時代のコンテンツの中では、「猫が夢の中に出てきたと思ったらそれは妊娠のしるしだった」(源氏物語)とか、「死んだ知人が猫に生まれ変わって会いにきた」(更級日記)のように、神秘性を備えた動物として登場することが多かった。

時代が下るとその傾向はもっと強くなって、神秘的というよりはむしろ「魔性」を備えた動物として描かれたり、本物の「魔物」として描かれることも増える。中国では「金華猫」とか「猫鬼(びょうき)」といった化け猫として、ヨーロッパでは魔女の手先として、日本ではおなじみの「猫股(猫又)」という妖怪として、猫は様々なコンテンツに登場することになる。


この猫股については平岩米吉『猫の歴史と奇話』に詳しい。本書では猫股の一般的な描かれ方について以下のように述べている。

猫股はどんなことをしたかというと、最大の悪行は、いうまでもなく、人を食うことであったが、その他、後ろ足で立って踊ったり、物を言ったり、火の玉をころがしたり、死人を躍らせたりした。そして結局、人を食い殺し、その姿に化けるというのが、猫股の常道とみられるようになった。


猫股すごい。正真正銘の妖怪だ。(うちの猫はときどき、後ろ足で立っておやつをねだるくらいはするが、さすがに踊ったり火の玉を出したりはしない。)
もちろんこれはやや極端な例だけれど、とにかく、猫はどこか「妖しい存在」、「不可思議な存在」としてコンテンツに登場する傾向があり、それは実はつい最近まで続いていた。(みんな大好きな絵本の「100万回生きた猫」だって、不思議な猫の物語だ。)

ちなみに、犬に関してはこのような「魔性」を持つ動物として描かれることはほとんどないらしい。この猫と犬の扱われ方の違いの理由について、上述の『猫の歴史と奇話』では、「猫には犬のような明朗さと社交性が欠けている」ためと書かかれており、我が家の無愛想な猫のことを思い出してちょっと笑ってしまった。猫のこういう性格は、猫好きの人には愛らしく映るが、そうでない人には奇妙で不気味に映るのかもしれない。

また、少し想像力を働かせると、こうした猫の「魔性」は、もしかすると猫の飼われ方に起因するものだったかもしれないと思えてくる。飼い猫であっても、鎖に繋がれるわけでもなく、家の中と外を自由に行き来することを許されていた猫は、その行動のすべてを人間が把握することはできない。

好き勝手に中と外を出入りして、猫社会と人間社会の両方に属しながら生活する猫たちを見て、人間は勝手に想像をめぐらし「人間が見ていないときに、猫たちだけで何か妙なことをしているんじゃないか。」と考える。そうした想像が、猫の魔性を増幅させていたのではないか。


現在の猫コンテンツは、猫の「かわいさ」、「愛おしさ」が主なテーマ


じゃあ現代はどうだろう。楽天ブックスの「ネコ本特集」のコーナーには、最近話題の猫本として、例えば以下のようなものが紹介されている。

『日本一寝顔が酷い絶世の美猫セツちゃん』 mino
twitter 15000回以上RTされ、「日本一寝顔が酷い美猫」として瞬く間に世間に衝撃を与えた白猫セツちゃん。普段の天使のような美しさからは想像もつかない酷い寝顔に抱腹絶倒間違いなし! 

『ときめく猫図鑑』 福田豊文/なかのひろみ
世界で一番かわいい猫図鑑!大人気カレンダー「ほのぼの子ねこ」の福田豊文氏によるかわいい猫写真満載

『うちの猫がまた変なことしてる。』卵山玉子
アメブロ猫ランキング第1位! 夜中にジッと見つめてくる、顔にお尻をつけてくる、箱に詰まる...保護猫会で出会った2匹の猫のかわいい仕草に癒される大人気猫漫画ブログが描きおろしを加えてオールカラーで書籍化!

<出所>楽天ブックスHP

これらからは、猫の「神秘性」や「魔性」の気配は感じられず、猫の「かわいさ」に正面からスポットをあてたものや、飼い主が猫と一緒に暮らすなかで発見した「猫の新しい魅力」を紹介するものなどが多いようだ。

このように、現在の猫ブームを形成している「コンテンツ」は、従来のように猫を不思議で妖しいものとして扱ったものではなく、猫をかわいく、愛おしい存在として扱ったものが中心となっている。このコンテンツの変化の原因については、いくらでも解釈のしようがあると思うが、同時期に起こった「猫の飼育形態の変化」との関係で説明することもできそうだ。

つまり、ここ10年ほどで猫の完全室内飼育が一般的になり、飼い猫の多くは「外の世界」との接点がなくなった。飼い主は、猫の行動を完全に把握できるようになり、猫が不思議で妖しい動物という認識も薄れていった。代わりに、家の中で一緒に過ごす時間が増えたことで、家族の一員としての猫のかわいさ、愛らしさに改めて気づく人間が増加。そうした人たち向けの猫コンテンツが増加し、ブームを形成している。

言い換えれば、ここ10年の猫コンテンツブームは、猫の飼育形態が、内外飼いから完全室内飼いに移行していく過程の、いわば副産物として生まれてきているものじゃないか、というのが、今のところの私の考えだ。

この、「猫のかわいさ、愛おしさ」をテーマとしたコンテンツのブームが、これから先どうなっていくのか、現時点ではよくわからない。でも、ブームの始まりからずいぶん長い時間が経っていることを思うと、遠くない将来、猫コンテンツの界隈にも大きな変化が起きそうな予感がする。

まあ、当の猫たちは、自分たちがコンテンツの中でどう扱われているかなどは気にするそぶりもないし、だいいち、猫は数千年前からほとんどその性質を変えておらず、要は人間のほうが勝手に不思議がったり、怖がったり、かわいがったりしているというだけの話だ。猫たちにすれば「人間たちで勝手にやっといてくれよ」というのが本音かもしれない。

北洋祐(@kitayooo

<参考文献>
田中貴子 [著]. 猫の古典文学誌 :. 講談社, 2014.10.
山根明弘 著. ねこの秘密. 文藝春秋, 2014.9.
平岩米吉 著. 猫の歴史と奇話. 動物文学会, 1985.2.


ネコノミストの研究室ブログライター紹介

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北 洋祐

京都大学経済学部卒業。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員として、中小企業政策、スタートアップ企業政策の研究に従事。一匹の野良猫を保護して飼い始めたことをきっかけに猫派となり、それ以来ライフワークとして動物愛護分野の研究にも勤しむ。2016年からは、人と猫の望ましい関係について考え発信する「ネコノミスト」として活動。現在は元野良猫のシンスケと保護団体から譲り受けたゴマの2匹とともに暮らす。好きな猫マンガは伊藤潤二『よん&むー』

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武井 泉

市立高崎経済大、東京大学大学院卒業。独立行政法人の研究所等を経て2007年より三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。アジア・アフリカの国際協力事業(農村開発、社会保障等)や、ハラール市場についての業績多数。2015年より、ネコの幸せと人との共生を考える「ネコノミスト」としても活動を開始。現在、5歳の2匹の元保護猫と暮らす。これまで一緒に暮らした猫は40匹以上にのぼる。趣味は、園芸と、海外出張の合間のネコ撮影、ネコグッズの収集。

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みにゃさまのコメント

「猫ブーム=かわいい」確かにねこの可愛さや変な寝顔や寝像、そんなのが多いかもしれませんね。ウン十年前うちにいた猫たちも、半外猫みたいなものでご飯と寝に帰ってきて、近所に別宅と別名を持っているという認識でした。それが許されている社会でもあったのかと思います。
一日中人のそばにいてたまに自分の事、人間だと思ってるんじゃないかと思う猫もいるようで。猫も時代とともに変化しながら人間の生活に溶け込んでいるのはやっぱり「猫又」だったりして!

by あずにゃん 2017-07-13 12:53