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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

ネコノミストの研究室

2017年06月14日

「猫ブーム」の正体をつきとめる

ネコノミストの北洋祐です。
最近は、この「ネコノミストの研究室」での連載をきっかけに、雑誌やラジオなどなど、メディアの方から連絡をいただいて、猫に関してお話をさせていただく機会が増えてきました。テーマとしては、「最近の猫ブームの背景」とか、「猫関連のマーケットの動き」とかが多いような気がします。

これまで、そういった取材の依頼が来るたびに、ちょこちょことデータを集めたりコメントを書いたりしていて、それがだんだん手元にたまってきているので、今回はこの場を借りてそれを少し放出してみようかと思います。(記事中で、猫関連市場という言葉を多く使っていますが、これは猫の生体販売のことではなく、猫関連の製品やサービスの市場のことを指しています)


「猫ブーム」についてのよくある誤解


例えば、ビジネス雑誌やテレビでの猫特集では、導入部分で以下のように語られることが多いようです。
・最近は猫が大ブームになっている
・年内にも猫の数が犬の数を上回ると言われており、とにかく日本人はみんな猫が好き
・なんと、猫がもたらす経済効果は2兆円以上らしい(ネコノミクス)
・ということは、猫関連の製品やサービスの市場にはビジネスチャンスがある

このストーリー、とてもわかりやすいので、最近はなかば「前提」というか、「常識」のように扱われています。でも、これって本当はちょっと(かなり)おかしいんですよね。

そもそも、この「2兆円以上の経済効果」というのは、関西大学の宮本名誉教授の試算によるものですが、これは別に「新たに2兆円の市場が出現した」というものではなくて、ほとんどが古くからあるペットフード産業とかペット用品産業の売上高と、そこからの波及効果です。要は、その2兆円の経済効果は、「もとからそこにあった」もので、そのことは「猫ブーム」とか「猫関連市場の成長性」とかとはほとんど関係ないのです。
(この2つを結びつけるのは、例えば、日本人がみんな米を食べているから「米ブーム」だ、と言っているようなもの)

このように誤解の多い「猫ブーム」ですから、そろそろその正体をきちんと解き明かす必要があるんじゃないかと思っています。この点について、私自身は以下のように考えています。

「猫ブーム」は確かに起こっている。でも、それは猫の数が増えているわけでも、猫関連の製品・サービスの市場全体が成長しているというわけでもない。猫ブームの正体は、「猫コンテンツ人気の高まり」と、それにともなう「猫コンテンツ市場の拡大」のことに他ならない。


猫関連市場の2分類 「猫の飼育市場」と「猫コンテンツ市場」


「猫ブーム」という言葉は、多くの場合「猫関連市場の急拡大」と同じ意味で使われます。論点を整理するために、この「猫関連市場」をざっくりと2つに分けてみましょう。
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1つは「猫の飼育市場」で、これはペットフードとか猫トイレ、動物病院など、猫を飼育するうえで使われる製品やサービスの市場を指します。
もう1つは、「猫コンテンツ市場」で、猫をテーマとした映画や、猫特集雑誌、フェリシモ猫部で売っている「三毛猫ルームパーカー」のように、猫好きの人間が消費する製品・サービスの市場を指します。


国内の「猫の飼育市場」は先細り


このうち、国内の「猫の飼育市場」は、「急拡大」どころか、全体としてはかなりの先細りが予想されます。というのも、猫の飼育市場は、以下の3つの要素の掛け合わせでできていて、そのいずれの要素も今後拡大する見込みが薄いのです。
① 日本の世帯数
② 猫を飼っている世帯の割合(飼育率)
③ 1世帯あたりの猫への支出額
  (国内の「猫の飼育市場」の規模は、①×②×③で決まる)

まず、①は、人口減少時代の日本では、増加は見込めません。
また、②の飼育率に関しても、「ペットフード協会」の調査によれば、2010年以降、少しずつ、でも着実に減少しています。しかも、「猫の飼育を希望する人の割合」も減少していて、この調子だと、今後よっぽどのことがない限り、日本における猫の数は増えることはなさそうです。

図:日本における猫の飼育率(赤)と、猫の飼育意向(青)の推移
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※「猫の飼育意向」は、「猫を現在飼育している人」と「今後飼育したい人」の両方を含む。
<出所>一般財団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」より筆者作成

では、③の「1世帯あたりの猫への支出額」はどうでしょう。「ペットの家族化」が進んで、猫に多くのお金を使う飼い主も増えているんじゃないの?と思うかもしれません。(自分も最初はそう思っていました)。でも、データを見てみると、そのように言い切るのも難しそうです。(猫への支出は、2011年以降ちょっとずつ下がっていて、2016年だけ妙に増えているけど、これが継続するかどうかは不明)

図:猫の飼育者による1ヶ月あたりの猫関連支出の推移(平均金額)
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<出所>一般財団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」より筆者作成

これだと、「猫の飼育市場」に関しては、「急拡大」=「ブーム」が起こっているとは言えそうにありません。(もちろん、これはビジネスチャンスがぜんぜん無いということは意味しません。むしろ、最近の猫の飼育市場では、良い製品・サービスはきちんと売れていく傾向があるし、海外市場にもチャンスはあります。でも、これは「猫ブーム」とはあまり関係ない話なので、また別の機会に書いてみたいと思います。)


「猫コンテンツ市場」は花盛り


じゃあ「猫コンテンツ市場」はどうでしょうか。猫を題材とした映画や本、ゲーム、雑誌等は本当によく目にするし、巷の猫カフェもかなりお客が入っているようです。最近では猫目当ての旅行なんてものもあるようですね。感覚的には、「ブーム」=「市場の急拡大」が起こっていてもおかしくないように思います。

その点に関して、猫コンテンツ市場の規模を示す統計などは世の中に存在しないので、なかなか難しいところですが、それを間接的に示すようなデータは手に入ります。

例えば、以下のグラフは、国立国会図書館および全国の公共図書館に収蔵されている犬猫関連の本の件数を出版年別に整理したものです。これをみると、2007年には「犬本」のほうが多かったのが、だんだんと「猫本」の数が増えて、2016年時点では猫本は犬本の2倍近く出版されていることがわかります。

図:猫と犬の関連書籍の出版件数推移
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※「国立国会図書館サーチ」(http://iss.ndl.go.jp/)にて、タイトルに「猫」または「犬」と入っている「本」の件数を出版年別に検索し、件数を整理

このように、猫はコンテンツとしての人気がとても高まっていて、これはもう、紛うことなく「猫ブーム」です。

猫を飼う人が減っていく一方で、コンテンツとしての消費だけ伸びていくというのは、猫飼い主としてはすこし複雑な心境ですが、事実としてはこのような状況なのでしょう。まあ、私も猫本を毎週のように買っていて、猫コンテンツは大好きなんですけど。

北洋祐
(@kitayooo)

【告知】
6月12日発売の「AERA(アエラ) 2017年 6/19 号」に、弊社のネコノミスト2名(北・武井)のコメントが掲載されております!よろしければご覧ください。テーマはやはり、猫関連市場について、でございます。



ネコノミストの研究室ブログライター紹介

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北 洋祐

京都大学経済学部卒業。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員として、中小企業政策、スタートアップ企業政策の研究に従事。一匹の野良猫を保護して飼い始めたことをきっかけに猫派となり、それ以来ライフワークとして動物愛護分野の研究にも勤しむ。2016年からは、人と猫の望ましい関係について考え発信する「ネコノミスト」として活動。現在は元野良猫のシンスケと保護団体から譲り受けたゴマの2匹とともに暮らす。好きな猫マンガは伊藤潤二『よん&むー』

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武井 泉

市立高崎経済大、東京大学大学院卒業。独立行政法人の研究所等を経て2007年より三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社。アジア・アフリカの国際協力事業(農村開発、社会保障等)や、ハラール市場についての業績多数。2015年より、ネコの幸せと人との共生を考える「ネコノミスト」としても活動を開始。現在、5歳の2匹の元保護猫と暮らす。これまで一緒に暮らした猫は40匹以上にのぼる。趣味は、園芸と、海外出張の合間のネコ撮影、ネコグッズの収集。

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みにゃさまのコメント

とても興味深いお話だと思いました。「猫ブーム」なのになぜ猫たちは大事にされないの?と思ってましたが、コンテンツとしての猫人気というお話に納得です。ブームが去ったあと、みんなの心に猫がいつのまにか住み着いていて、どんな動物の命も軽んじられることなく大切に扱われるのが当たり前になればいいのになあ~!

by ちゃかぽこ 2017-06-19 19:21